JCLIF レポート


 こんにちは、GCです。
 2014年12月13日、未払いの給与を求めて工事現場に行った建設業農民工の一人の女性、周秀雲さんが警察の暴力的対応によって「非正常な死亡」に至らされました。その後、横たわって動かない女性の髪を警察が踏んでいる写真がネット上で拡散し、大事件となっていました。したがって、中国労使関係を研究する学者たちはこの事件を背景に建設労働者の正当な権利を保護するために、習近平主席への連名書簡をネットで公開しました。

周秀雲(ジョウ・シウユン)さん

中国語原文はこちらです。
 
以下は日本語の訳文です。

法治の実現のために建設労働者の正当な権利を保護してください
習近平主席にあてた研究者らの連名書簡
(2014年12月29日 )

尊敬する習近平主席殿

 新年の初めに当たり、きっとお忙しいことと思いますが、私たち長年にわたって建設業界で働く農民工を研究する研究者、教員として、考えた挙句に貴殿に便りを書くことを決めました。 
 私たちは、最近、山西省太原で発生した給与支払いを求めた農民工が逆に「非正常な死亡」に至った事件に注目しております。2014年12月13日、山西省太原市の「山西四建集団経貿龍瑞苑建設プロジェクト」で働く河南省鄲城建設労働者13人が、未払いになっていた2.9万元の賃金に対して、何度も支払いを要求しましたが、賃金を受け取ることができませんでした。旧正月を控え、労働者たちは直接プロジェクトを管轄する部門に対して支払いを要求する行動をおこなったところ、警備員に阻止されて争いになりました。その後、警察が到着しましたが、支払いを求めていた農民工の母親である周秀雲に対して暴力的に対応し、彼女を「非正常な死亡」に至らしめることになりました。一人の母親が、このような形で不慮の死を迎えることになりましたが、彼女がどのような殴打、虐待、そして死に至らしめられたのかを想像することは容易ではありません。 
 この事件は警察による違法な法執行を示すだけでなく、我が国の建設現場で働く4000万人の農民工が労働契約において困難を抱えているという問題、そしてそれによって長期的に存在してきた賃金未払い、社会保険未加入、労働安全衛生の欠如、職業病と労災に対する正当な補償を受けられないなど、一連の深刻なを反映しています。第18期4中全会では「法に従って治める」ことが再び強調されましたが、私たちは、建設業界で働く農民工にとっては本当に「労働契約法」を貫徹することこそが、法に従って治めるという方針を実現することであり、「12・13の悲劇」の発生を回避することができると考えております。 
 私たちは2007年から「新世代農民工に着目するプロジェクト」を立ち上げ、建設現場で働く4000万の農民工の労働環境について調査を行ってきました。そこで明らかになったのは以下の問題です。 
 第一に、労働部門の法執行力が不足しており、「労働契約法」の形骸化で、建設業界で働く農民工の労働契約締結率が、長期にわたって低い水準にあります。
 2013年、私たちが北京、瀋陽、鄭州、武漢、成都、重慶、西安などの都市で行った調査では、建設業界で働く農民工の82.6%が労働契約を締結しておらず、なかでも重慶94.5%、鄭州93.2%、武漢87.9%が労働契約を締結してないという状況にあります。また賃金支払いを求める集団的行動の138事例において、労働契約を締結していなかったケースは95%に上ります。 
 第二に、建設業界で働く農民工の賃金の遅配や欠配が存在し、労災や職業病後に補償を受けることが困難です。
2013年の調査では、労働法の規定により月毎に賃金が清算されている建築労働者は19.9%にとどまり、四割の労働者は過去一年のあいだ賃金が支払われていません。賃金の遅配欠配のケースではある会社10.5%の労働者が「一度も賃金を支払われたことがない」状況でした。建設会社では、労働法の規定に違反して月毎に賃金を支払わない状況が一般的で、これは建設業界における「不文律」であり、農民工の賃金の長期かつ深刻な遅配欠配という慢性病となっています。あわせて建設現場での労災は常態化しており、労働契約の締結率が低いことで、被害者が適切な補償を得ることができていません。
第三に、「建築法」では建設会社が建設工程の違法な下請化、分割下請化を禁じているが、現実には禁止しきれていません。
「工程の違法な下請化」は建設会社が雇用責任を回避するために用いる手段で、建設業界で働く農民工が正当な権利を損なう根拠にもなっています。この7年来、私たちは建築労働者に関する多くの研究報告を発表してきました。138件の集団的賃金請求事件について調査しましたが、そのなかで多重下請化に伴う ケースは97.1%に達しています。建設業界の多重下請化が賃金欠配の主要な原因になっています。 
 習主席、あなたはここ数年、民生問題の解決が重点中の重点ということで、全国で大衆路線教育の実践活動を推進されておられます。あなたは自ら建設現場を視察して労働者を慰問されています。このような庶民の状況を視察され、現場労働者を心配される作風に大いに励まされています。初春の寒の折、そしてまた4000万建設労働者の賃金支払い請求のピーク期の折に、わたしたちは彼ら建設労働者がこの一年間に流した苦労の汗に対して、彼らが尊重される温情を感じることができるよう願っています。そのために、私たちは以下の政策提言を行います。
 第一に、建設業界の違法な下請化を厳粛に処罰し、「工程の違法下請化」という「大トラ」を狩ること。 
 第二に、政府の労働部門の責任を問い、労働契約と社会保険に関する手続き書類を農民工一人一人が保持することができるようルール化すること。 
 第三に、中央政府と地方政府は、農民工の権利ホットライン、マイクロブログ、ツイッター、電子メールボックスを設立し、賃金欠配している会社名を毎月公表すること。 
 第四に、現場労働者の労働組合の結成を推進し、大衆的力で違法な建設現場を監督すること。 

国家の経済発展と都市建設には、建設業界で働く農民工の権利が保障されるという基礎の上に築かれなければなりません。農民工の仕事が充実したもので、その労働は尊重される必要があります。建設業界で働く4000万の農民工にとって、大衆路線を堅持とは、すなわち労働における尊厳ある労働契約を実現することです。法に従って治めるとは、労働者の権利を保障するセーフティーネットを実施することで、法治に対する労働者の期待をふいにしてはならないと考えます。お忙しい中、習主席が私どもの書信を拝見していただき感謝します。ご健康とご活躍を心よりお祈り申し上げます。


沈原    清華大学社会学系教授,系主任
郭于華  清華大学社会学系教授
佟新    北京大学社会学系教授
盧暉臨  北京大学社会学系副教授
潘毅    香港理工大学応用社会学系教授
戴建中  北京市社会科学院社会学所教授,前所長
郭偉和  中国政法大学社会学院教授
沈紅    中国社会科学院社会发展戦略研究院研究員
鄭広懐  南京大学社会学院副教授副系主任
任焔    中山大学社会学系副教授

 

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