JCLIF レポート

遼寧省最大の派遣会社の出資に同省労働行政職員が関係か?
中国経営報 2013年7月6日

中国の派遣労働が抱える問題のひとつに、この10年でわんさとわいてでた派遣会社の出資者や経営者の多くが、地元の労働行政部門と何らかの関係がある、ということです。これは中国だけに限ったことではないですが、「世界の工場」として世界第二位に発展してきた中国の成功の秘密(というよりも公然の情報ですが)のひとつがここにあるようです。

政府部門が設立に関わったこれら派遣会社は、すぐに「民営化」されたりもしているようですので、「官の干渉があるからダメだ。民にまかせるべきだ」などというくだらない主張をしてもなんの解決にもならない。労働者の側からのイニシアチブで状況を変えるしかないですね。

以下、中国では当たり前体操くらい当たり前のことなのでニュースでもなく、あまり労働者の声が反映された記事とはいえませんが、選挙戦の暇つぶしにどうぞ。

原文はこちら


7月1日から施行された「改正労働契約法」は、派遣会社の資格を、従来の資本金50万元から200万元に引き上げた。それにより派遣市場の混乱が改善すると言われている。

しかし「中国経営報」の記者の調べによると、一定規模の派遣会社の多くが、労働主管部門と何らかの形で関係を持っており、なかには主管部門に在職者や退職者が出資者になっていたり、なかには主管部門が直接投資をして立ち上げた会社もある。

法律専門家によると、現行の法律では禁止はされていないが、そのような行為は行政倫理に反しており、法執行の公正さに影響を与えるという。

「省内最大の人材会社」と言われている遼寧信誠人材サービス有限責任公司(以下「信誠人材」)は、中国石油化工遼寧瀋陽石油支社(以下「中国石油化工瀋陽支社」)の派遣労働者との間の労働仲裁事案の当事者の一つになっており、労働行政部門との関係も明らかになりつつある。

◆ 国有企業への「派遣」

2013年4月22日、中国石油化工瀋陽支社に契約を解除された4人の派遣労働者は、賠償総額60万元余りの仲裁申し立てをおこなった。信誠人材は派遣会社として申し立てのなかで訴えられている当事者の一つになっている。

「信誠人材はこれまで千人を上回る労働者を中国石油化工瀋陽支社に派遣してきた。」と信誠人材の社員は言う。

瀋陽市工商部門の資料によると、信誠人材は2005年4月に設立、登記資本金は50万元。業務内容は人材募集、推薦、研修、人事代理、人材派遣など。この会社のウェブサイトでは、遼寧省人力資源社会保障庁と遼寧省工商行政管理局の許可を受けている。

「遼寧省最大の人材派遣会社で、契約している会社は一万社を超えています。派遣している労働者は数十万人にもなります。」上記の社員はこう述べる。「中国石油化工、公安庁、地方税務署などが大口のお客様です。」

信誠人材が公表している会社案内によると、中国銀聯遼寧支社、遼寧省建築科学研究院、遼寧展覧グループ、瑞心ホテルグループ、遼寧恵華グループ、遼寧省公安庁、中国石油化工、中国石油などが顧客だという。

「信誠人材は瀋陽で比較的早く設立された人材派遣会社でネットワークもある」と同業者も信誠人材の実力を認める。設立3年目の人材会社の経営者は「信誠は省内14の都市に支店をもっており、2011年の売上は2億元になると信誠から直接聞いた。瀋陽ではトップクラスだろう。」と語る。

この経営者によると、人材派遣業は将来性がある業界で、派遣先との安定した関係があり、満足されるサービスを提供すれば、もうけを出すことはそれほど難しくはないという。

◆ 株主の謎

瀋陽市工商部門に登記された信誠人材の登記資料によると、最初の登記は資本金50万元で、法人代表は王秀岐となっている。出資者は法人と自然人の2者で、ひとつが遼寧省汽車工業物資総公司で出資額26万元(持分52%)、もうひとつが自然人の王波で出資額24万元(持分48%)である。

何度かの所有権譲渡と増資を経て、2013年4月2日には総投資額200万元、出資者は王妍麗100万元(持分50%)、王波81万2500元(40.625%)、温宇18万7500元(9.375%)の三人になっている。

遼寧沢雲弁護士事務所の調査によると、信誠人材の二番目の株主の王波は、遼寧省人力資源社会保障庁の管轄事業部門である遼寧省国際人材労務交流センターに在籍している中堅幹部だという。同センターは遼寧省の専門家の対外交流の窓口となっている。

「王部長はここの中堅幹部ですよ。もともと財務畑でしたが、現在は業務も担当し、総合部部長です。」遼寧省国際人材労務交流センターの職員は語る。

6月12日、中国石油化工の労働争議を提訴した4人の派遣労働者、高原、王環、文明、姜帆は、遼寧省人力資源社会保障庁監察室と工商部門、公安部門に実名で告発を行った。告発状によると、王波は人力資源社会保障庁の幹部であり、上級機関として、各種のさまざまなルートを通じて管轄下の労働仲裁部門の公正な法執行に干渉したとされる。高原など4人の派遣労働者は、人力資源社会保障機構の労働争議仲裁部門に仲裁を申し立てていたが、希望するような結果を得ることができなかった。

告発状は、信誠人材と王波の責任を追及し、派遣業務における違法業務や契約詐称、不当利益などの法的責任を支給することを求めている。

◆ 合法なら問題なし?

6月26日、記者は遼寧省人力資源社会保障庁監察室の趙処長に話を聞いたところ、同庁はすでに告発状を受け取っているという。しかし同庁は多数の部門を管轄していることから、王波個人の情報などについては現在のところ把握できていないという。

政府や党機関の幹部がこのような事業を経営することが違法行為にあたるのではないか、との質問に趙処長は、同庁ではそのようなことを決めた正式な文書はないので、国務院あるいは遼寧省の関連文書にそって対応するしかない、と答えた。王波の行為がこれらの規定に抵触するかどうかは調査中だという。

王波本人に電話取材をしたところ、信誠人材は国家工商などの主管部門が設立を許可した紹介会社であり、出資者として関わってはいるが、具体的な業務には携わっていない、この会社の出資者や業務内容などはすべて国の法律に従っているという。

「私は遼寧省国際人材交流センターの普通の職員で、幹部でも何でもない」と王波は答えた。「人材交流センターは外国への労務派遣業務をおこなっており、信誠人材と同じような業務だとはいえ、何をどう話していいのやら」。

派遣業界に詳しい業界の担当者によると、派遣労働市場において、労働行政部門と関係のある会社は次の二種類に分けられるという。ひとつは、派遣会社が労働行政部門の退職者や知人によって出資経営されているもの。もうひとつは現地の労働行政部門の所属部門が出資して設立されたものだという。

「政府部門と関係のある会社ならいろんな業務もスムーズに行くし、顧客への信用もある。ある地方の最大の派遣会社は労働行政の所属機関が設立した会社だ」とこの担当者はいう。

畢宏海(法学)によると、現行法規では、労働行政部門と利害関係のある派遣会社の存在は禁止されていないという。しかし行政倫理からいって、監督部門と監督対象のあいだに利害関係が存在すると、法執行の公正性に影響する。政府の法執行部門は、懸念解消のための適切な対応をとる必要があり、政府による法執行の公正性を保証すべきだと畢宏海は訴える。

(以上)


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