JCLIF レポート

以下のレポートの筆者はフェミニスト活動家で、ルポもシスターフッドにあふれる内容なのですが、それがうまく訳せたかは、はなはだ自信がありません。
             翻訳・報告:IY
中国語原文 

ルポ:女たちのたたかい-広州大学城の環境衛生労働者のストライキ
              鄭楚然 2014/8/29


【解説】8月21日、広州大学城[学園都市]の環境衛生労働者[街頭清掃労働者]200名あまりが、処遇問題での不安からストライキを行い、座り込みの抗議を行った。抗議に参加する環境衛生労働者の8割は女性であり、その多くが地元出身者で、10年前に大学城を建設する際に、土地を政府に収用されたが、遠隔地への出稼ぎではなく、地元に残って環境衛生労働者になったという。抗議は現在までに一週間あまり続いているが、いまだ満足いく回答を得られていない。今日も労働者たちは座り込みを続けていたが、午前中に警察がきて混乱し、労働者が一人殴られて負傷、労働者を支援していた弁護士が警察に連行されたが午後には解放された。以下は、支援の参加者の手記である。

広州大学城の環境衛生労働者のストライキは今日で8日目を迎えた。

女性が80%を占めるこの争議団は、2014年8月21日から、普段は雨の日も風の日も関係なく清掃をおこなってきた貝崗GOGO新天地[ショッピングモールの名前]の向かい側でおこなわれ、繰り返し彼女たちの訴えが叫ばれた。
 早朝7時、彼女たちは大学城小谷囲地域事務所の前に集まり一日行動をスタートした。彼女たちの顔や服には「広電不動産[雇用主]は、ひどい仕打ちをやめてください」、「在職年数をゼロにしないで」、「9年もこき使っておいて、捨てるのですか」というシールが張られている。

写真の説明:スト労働者の顔に貼られているスローガン

労働者たちは空きスペースに集まっていた。ポニーテールの労働者が参加者に向かってこう言っていた。「旧会社が新会社の人事部門を装って新天地で説明会を行っています。雇用関係、賃金待遇、業務内容の変更はないと言っていますが、まったくのデタラメだということを私たちは知っています。私たちの雇用契約によれば、なにももう一度雇用契約を締結しなおす必要などないのです。惑わされずに団結しましょう。バラバラにされないようにしましょう。いいですか?」
その場にいた労働者は女性も男性も声を合わせて叫んだ。「よし!」

写真説明:「惑わされずに団結しましょう。バラバラにされないようにしましょう。いいですか?」「よし!」

 笑顔で監視に対抗し、沈黙で抗議を続ける女性たち

労働者たちは普段出勤につかっている電動スクーターに私たち学生と市民記者を乗せて、大隊列を組んで新天地前の空きスペースにやってきた。座り込みを始めて間もなく、「粤AXQ189」ナンバーのシルバーの乗用車が新天地に横付けされた。
「あれは広電物業の車よ。乗っているのは副社長ね」と教えてくれた。半透明の窓ガラスから副社長が何分にもわたってこちら側を撮影していた。
「撮りたきゃとればいいわ。こっちから挨拶してやるわよ!」。そして女性たちの声が一斉に響き、労働者たちは笑顔で車に向かって手を振った。「副社長、こっちに来て座ったらどうだい?」、「こんにちは~」。ユーモアある闘争方法は通り過ぎる学生たちの顔を思わずほころばせる。

写真説明:車の中から撮影を続ける副社長

貝崗村を見回すと、路面はきれいだし、ごみもそんなに落ちていない。環境衛生労働者の趙姉さんによると、大学の新学期が始まるときだったので、会社が隣の番禺区から臨時工を雇って掃除させたのだという。「私たちも大学生が新学期早々から汚い環境で勉強してほしいとは思ってないわ。だけど他に何は方法がある?」と趙姉さん。
 趙姉さんの「他に方法がない」という言葉には複雑で長年の問題が含まれているからだ。十年前、小谷囲村が強制的に収用されたとき、政府は村民に対して地元での仕事をあっせんするので、ここを離れる必要はないと約束した。村民らは政府を信じて、ここ大学城で環境衛生労働者になった。しかし、広州広電物業管理有限公司が大学城の清掃事業を請負ってからは、雇用契約がデタラメになった。白紙の契約書に指紋押捺を求められたり、労働者に期間の定めのない雇用契約を結ぶ権利が発生してもそれを拒否したり、労働時間や業務内容や作業場所も無規則に拡大されたり・・・。今年8月、広州広電物業管理有限公司が大学城の清掃事業の落札に失敗し、事業から撤退することになった。しかし、200余名の環境衛生労働者の処遇については、当初の政府の約束を反故にする案が浮上した。つまり、そのまま広電物業と一緒に撤退して別な地域で清掃の仕事を続けるか、あるいは落札した会社と新たに契約をするか(その場合、年金や各種手当にかかわるこれまでの雇用年数はゼロになる)。



写真の説明:今日の行動について話す環境衛生労働者

「物業公司は責任逃れを言い続けながら、インターネット上ではデマを流しています。カネで雇ったウェブユーザーをつかって環境衛生労働者のストライキに関するツイッターに書き込みをしています。周りに迷惑をかけるストライキだとか、学生が支援しているというのも怪しいもんだとか、
外部勢力に利用されているとか」。支援に訪れた大学生、小黒は語る。「いくつかの書き込みをみると、複数の人間がおんなじつぶやきをあちこちでコピペしているんです。大学生は分別をわきまえるべきだとか、利用されないようにすべきだ、とか。だけどどうしてもっとたくさんのサクラを使わないんでしょうね。これではバレバレですよ。市民たちがそんな小細工を見抜けないとでも思っているんですかね・・・。」
 ひとりの女性労働者が座りながら歌う。「共産党がなければ新中国もなかった・・・」。まわりのみんなは一斉にスローガンを叫ぶ。「問題解決が先。仕事はそれから!」

写真の説明:「問題解決が先。仕事はそれから!」

 女性労働者たちが「人間の盾」で弁護士と学生を守る

すぐに数台の警察車両と一台の特殊警察部隊の車両が現場に到着した。警察は手を後ろに組んで労働者たちに叫んだ。「何か言いたいことがあるのなら派出所で聞く。ここに座り込んではいけない!」
「物が盗まれたって相談してもいつも無視してたくせに、いまになって私たちの話を聞くだって?」と女性労働者たいうと、周りから笑い声が上がった。
 このとき隣で写真をとっていた私と大学生の小黒を見つけた警官が、「警察法」に定められた警察証の提示もせずに、私たちに身分証の提示を要求してきた。そばにいた呉魁明弁護士が警察証の提示を求めたところ、警察は緩慢な動作でそれを提示した。呉弁護士は労働者支援のために今日も現場に駆け付けてくれていたのだ。
 私たちは身分証の携帯を忘れてきたので、警察は「身分確認」として私たちを派出所に連れて行こうとした。身分確認くらいなら問題ないと思っていたが、まわりの労働者たちが猛烈に反対した。
 「行く必要なんてないよ!」隣で私を守ってくれていた姉さんが言った。「10年前、こいつらはひどいやり方で私たちの家や土地を収用したんだ。ほんとうにひどいやり方でね。だから行っちゃだめ。大学城の派出所は法律がまかり通るところなんかじゃないわ。好き勝手にやってる。行ったら帰ってこれないわよ!」
 他の労働者たちも必死に訴える。「あなたたち学生は知らないかもしれないけど、私たちはよく知ってるの。本当に恐ろしいところよ。大丈夫、私たちが守ってあげるから、絶対に行っちゃダメ!」そう訴えるお姉さんの目はみるみるうちに赤くなった。
 私は彼女たちを安心させるようこう言った。「お姉さん心配しないで。私たちは行きませんから。お姉さんたちの忠告を聞きます。」
 そして彼女たちは私たちと弁護士の周りを囲んで「人間の盾」を作ってくれた。彼女たちはわたしの顔に貼ってあったシールをはがして私たちを座らせた。警察の注意をそらそうとしてくれたのだ。こうして私たちはお姉さんたちに守られながら座り込みを続け、弁護士の動向に関心を向けることができた。

写真の説明:環境衛生労働者たちにしっかりと守られて

すると「人間の盾」の外側で急に叫び声が聞こえた。「警察が殴った!」しばらく騒々しい声があちこちから聞こえてきたが、お姉さんたちはしっかりと「人間の盾」をつくって私たちを守りながら、状況を伝えてくれた。「警察がむりやり呉弁護士をパトカーに連れ込もうとしてる!」「警察が芬姉さんを殴ったわ!」騒音とともに警察が時折吹き鳴らす警笛と何かが倒れるが聞こえる。
 騒乱が収まり、パトカーが去ってから労働者たちは、私たちをかばうようにして、その場に座り始めた。
芬姉さんがパトカーのほうからこちらへやってきた。左手が腫れているのがわかる。「警察になぐられちゃったわ。」芬姉さんは法律を知っているようで、すぐに病院で診断書を書いてもらうことになった。
 私たちはお姉さんたちの「人間の盾」の中で守られ続けていた。トイレに行こうとしたら、正体不明の男が後をつけてくるのを、お姉さんたちが発見した。すぐに十数人の労働者を呼び寄せて、女子学生がトイレに行くときには女性たちが、男子学生がトイレに行くときは男性たちが一緒にトイレにいくようにして、私たちが安全に座り込みの場所に戻ってこられるようにしてくれた。

写真の説明:怪我を診断をした労働者

 交渉の労働側主席代表は三人とも女性

その後、区総工会と地域事務所の担当者数名が現場にやってきた。20分ほど話し合ったが、かれらの「提案」はだいたい次の三つにまとめられる。
(1)5~10人ほどの労働者代表を選んでほしい。全員で交渉することはできない。(しかし実際には、労働者たちはとっくに労働者代表を選んでいたのだが、会社からいろいろと嫌がらせを受けていた)
(2)会社の規則を守ってほしい。ここに座り込んではいけない。
(3)区総工会は無料の弁護士を用意するから申請してほしい。自分たちで弁護士を雇う必要はない。

 労働者たちは、すでに呉魁明弁護士に依頼しているので新しい弁護士は必要ないと説明したが、区総工会の担当者は無料弁護士の申請をするよう労働者に何度も話していた。
 最後には、区総工会の担当者は「もしこの会社が本当に違法行為を行っていることがわかれば、私たちはきっと労働者の権利を守ります!」と約束した。現場では労働者から「いいぞ!」の声が上がった。



写真の説明:区総工会の担当者と話す

18人の交渉代表を労働者で選ぶことになった。労働者たちはすでに準備しており、選ばれた首席代表は3人全員が女性になった。しかし18人の交渉代表のなかに男が一人もいないことに、女性労働者たちはやりきれないようだ。「どうして男が一人もはいってないのよ」。
 その場にいて労働者代表に推薦された男性労働者も、家族からのプレッシャーを考えて代表就任を固辞した。
 労働者の間に失望、そして不満さえも漏れ始めたころ、首席代表の芬姉さんは街路樹に寄りかかりながら決心してこういった。「みんな団結しないとね。もし彼らが大変というなら、女だけでもやれるってところを見せてやろうじゃないの!」
 結局、16人の女性と2人の男性が正式な交渉代表になって会社側と交渉することになった。


写真の説明:お互いに気合を入れあう

 収用、恫喝、威圧にも負けず抵抗を続ける女性たち

◎ 毎晩、家の周りを誰かがうろついてるわ--芬姉さん
芬姉さんは、首席交渉代表の一人だ。殴られたこともある。一人暮らし。最近は外出のたびに何人かの男に取り囲まれるようにつけられるという。
ある晩には、会社の管理職が彼女と話がしたいとやってきた。この管理職がいうには、あんたには補償金をはらうのでこの件から手を引いてほしいという。このときの「話し合い」は早朝4時まで続いたそうだ。
芬姉さんは断った。カネをいくら積まれたって受け取るわけにはいかない。私は自分のもらうべき分だけをもらいたいだけ。仲間を裏切るわけにはいかない、と。

写真の説明:殴られた箇所のレントゲンを掲げる

 10年前の恐怖がよみがえる--林姉さん

林姉さんは小谷囲の地元民だ。2004年に大学城の建設で彼女の家は強制移転させられた。「機動隊の盾、特警、ドーベルマン、ヘリコプター。みんな見たわ」。林姉さんは「人間の盾」で私たちを守ってくれているときに、絶対警察についていかないように警告してくれた。「陳情行動も暴力的に解散させられ無理やり送り返される。派出所に連行されて出てこれなくなった人もいる。わたしは実際に見てきたのよ!」
 林姉さんによると、もし会社が条件変更なしで再雇用するとなれば、ここを離れてほかの場所が勤務地になる。またもや自分の家や土地から引きはがされてしまうことになる。

写真の説明:それほど縫製のよくない制服に貼られたスローガン

 気を張ってないと涙が出るが、第一線でがんばる--張姉さん

張姉さんは、家族のことを語りだすと泣いてしまう。大学城での清掃の仕事はたいへんで、自分の子どもの世話は妹に頼んでいるという。子どもはお母さんが恋しくて毎晩泣いている。「電話で子どもの泣き声を聞くと心が砕けるようにつらい。」
 張姉さんは自分ことを涙もろいという。泣いている人を見るといつも一緒に泣いてしまう。「今回の争議ではたくさんの仲間が涙を流しました。私も一緒に泣きました。」涙もろい張姉さんだが、ずっとストライキの第一線でがんばっている。学生が帰る途中で警察に誘拐されてしまうのではないかと心配して、わざわざ電動バイクで遠くの地下鉄の駅まで送り届けてくれる。
 私を駅まで送り届ける途中でストライキに話が及んだとき、張姉さんはまたまた泣き出した。しかしその涙も乾かぬうちに彼女はまたストライキの現場へと戻っていった。

写真の説明:ストライキ中の女性


写真の説明:支援の学生とともに


<2014年 後半>

<2014年 前半>

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