JCLIF レポート

こんばんは。会員のIYです。

広東省東カン市にある台湾資本の世界最大のブランド委託の靴工場で、4月14日から大規模なストライキがつづいています。すっかり情報提供が遅くなりました。
 東カンなどの製造拠点の多くの職場で蔓延している各種保険料を低く納付するというコスト削減のやり方(地元政府も認めている)に対して、労働者らの怒りが爆発しました。4万人の労働者がストライキにはいっています。

14日の写真など

労働NGOが複数活動する深セン市に隣接する一大工業地帯ということもあり、ストライキを支援するさまざまな動きがあります。広東省総工会に対してスト支援を求める署名や香港での支援・抗議活動などが報じられています。いっぽう、混乱収拾をはかる地元当局による警察力をつかった鎮圧で多くの労働者が拘束されているという報道もあります。
 長時間、低賃金、劣悪な労働条件など、お決まりの状況が労働者の怒りを倍増させています。
 4月17日には香港の労働組合と労働NGOが裕元社の香港オフィスに抗議行動を行っています。
 (写真) 



ストライキから五日目に、官製報道機関である人民日報海外版でも、このストライキについて報道がありました。「ストライキは労働者の権利意識の覚醒」というタイトルで、労働者は賃金だけでなく、年金や住宅積立金などの福利厚生、尊厳ある生活を要求し始めている、という前向きな報道でした。
しかし、意識的な活動家はこの報道に対して「労働者はとっくに覚醒している。寝ぼけてて今起きたのは官製報道機関のほうだろ!」という厳しいコメントがつけられています。たしかに報道全体の流れを読めば、いままさに資本と暴力装置の弾圧に抗してストライキを続ける労働者を支援するというよりも、闘いの矛先をある方向に誘導する姿勢が見え隠れしています。

ふだんは人民日報に掲載された記事などは翻訳紹介しませんが、今回は特別。活動家のコメントも併せて紹介します(抄訳ですが)。
 【以下、活動家のコメント】
 裕元工場のストライキは初めてではないし、ここ十年来、大なり小なり何度も発生してきた。「労働者の権利意識の覚醒」? 10年も前に世界一のストライキ大国になっていたことに気がつかなかったのか?いまになって覚醒したのは労働者ではなく諸君らのほうではないのか?記事では、今回のストライキを「原始的な方式」と形容しているが、警察犬をけしかけ、治安維持の暴力的弾圧をおこなっている当局こそが原始的ではないか!【以上、活動家のコメント】
 ・・・ということで、ぼくも覚醒した次第です。

以下、人民日報海外版で紹介された記事です。各自でご判断を~。

裕元靴工場の大ストライキは労働者の権利意識の覚醒である:人民日報(海外版)
筆者 王伝涛 2014年04月19日

ここ数日、[広東省]東カン市の裕元靴工場の工員らが「社会保険料、住宅積立金を返せ!」と書かれた赤い横断幕を掲げている。報道では、社会保険料をめぐる紛争で、東カン裕元靴工場で連日の大規模な操業停止時が発生しており、現地の複数の工場地区に波及しているという。労働者によると、社会保険料の納付率は、会社は給与支払い総額の11%、労働者は8%と定められているが、工場はその11%を支払っていなかったという。情報によると、争議に参加している労働者の数はこの会社の工員の過半数以上という。これは世界最大の国際ブランド委託の靴製造工場が全面的に生産停止に陥る危機を意味している。(4月18日中央テレビニュース、「第一財経日報」)


東カン裕元靴工場と聞いてピンとくる人は全国にもそういない。しかし、ナイキ、アディダス、リーボック、プーマなど世界60以上のブランド委託の靴工場であり、その生産量は世界の運動靴およびカジュアルシューズ市場の20%を占めることを聞けば、多くの人がこの驚きをもってこのニュースを見るのではないか。今週だけでも、家電メーカーの格蘭仕でストライキにともなう破壊事件が発生しており、その理由も東カン裕元とほとんど同じで、簡単に言うと福利厚生の条件が約束通りでなかったということである。

規模でいえば、万を上回るストライキは、格蘭仕事件の2000人規模をはるかに上回る。これほどの規模は、近代史上の「京漢鉄道大ストライキ」と「省港大ストライキ」を容易に想起させる。明らかに、我が国の労働者は、いままさに原始的な方式で自らのさまざまな権利を経営側からかちとろうとしている。これらの労働者はすでに10~20年も働いているが、これまで年金保険や住宅積立金などは聞いたこともなかったが、いまではこれらの権利をかちとるために、果敢にストライキという手段を選択した。

中国の労働者は偉大である。2009年、中国労働者がアメリカの『タイム』誌の表紙を飾ったときがもっとも注目された時だったといえる。表紙を飾った女性労働者は「インタビューは仕事中でなく、週末にしてください」と語ったことを覚えているだろう。中国労働者の勤勉精神はこれほどたいしたものなのである。だが同時に、勤務中のプレッシャーも顕著なものである。仕事をして金を貯めるというのがかれらの主要な目標である。しかし現在はそれにやや変化が見られる。中国の労働者はたんに賃金だけでなく、健全な福利厚生、とりわけ年金と住宅積立金を求めているのである。

中国労働者は、世界でもっとも安い労働力である。この点は誰も否定できない。耳触りのよい言い方でいうと「人口ボーナス」の開放という。耳触りの悪い言い方でいえば、労働制度の不健全、法治の不在、人間性を尊重しないことの表れである。長期にわたって、われわれは世界貿易に依存し、グローバル化市場に直面する加工型経済構造を建設し、廉価な労働力および豊富な剰余価値で、我が国をグローバルな労働集約型産業の最初の選択地にさせた。だが現状は、過去20~30年間、我が国の労働力ほどの廉価を実現した国はなかった。

中国労働者はいま目覚めつつある。これは「労働法」と「労働契約法」を実施した必然の結果というだけでなく、人間の魂の深部から発せられる渇望でもある。誰もが「モダンタイムス」でチャップリンが演じた「肉体機械」になりたいとは思っていない。とくに新世代農民工がすでに大きく発展し、独立的判断を有し、権利意識を有しており、企業が五保険一基金(養老保険、医療保険、失業保険、労災保険、出産育児保険と住宅積立金)を負担することを希望し、「団体交渉」賃金の権利を希望し、自らの組織と労働組合を希望し、自分がいる企業で昇進可能な空間を予想できることを希望し、安定し、家族を養い、つつがなく暮らせる仕事を希望しているのである。

労働者の権利意識は増大していることから、権利防衛の行動は頻繁に発生している。格蘭仕とナイキ工場のような激烈な形式だけでなく、毎年一度は発生する「人手不足」も、労働者の権利が損なわれている状況において「厭なら他の仕事を探す」という結果にすぎないのだ。もし労働部門が対象企業に対して労働権を促す検査を行わなければ、我が国のような労働集約型加工大国は、厳しいハードルに直面することになり、ひいては社会の安定という大事に関わることになるだろう。

誰もが尊厳ある仕事、まともな生活というのが、社会発展の究極の目標である。そうであるがゆえに、企業は労働者の賃金を引き上げるだけでなく、各種の福祉保険に加入しなければならず、また昇進と発展の機会を提供しなければならず、企業の責任として、自らの企業文化を建設し、労働者の帰属意識をつくりだす必要がある。


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