JCLIF レポート

上に政策あれば下に対策あり 派遣会社「同一労働同一賃金は回避可能」
混乱する広東省の派遣労働市場(調査報道その3) 2013年7月6日 人民網

中国では7月1日から改正労働契約法が施行されています。
改正の眼目は派遣労働の適正化です。

以下、珍しく中国の官制メディアの人民網からの翻訳です。党や政府が認める範囲内という制約はありますが、人民網のようなメディアも現実に迫ろうとしているようです。がんばれ中国の報道の自由。

もちろん政府の主眼は、もう少しルールある資本主義にならないとあまりの苦痛で「中国の夢」から人々が醒めてしまう、というところなのでしょうケド。日本の人民も2週間以内にアベノミクスの夢から醒めてほしいものです。

原文はこちら。
http://gd.people.com.cn/n/2013/0706/c123932-19014670.html


新しい「労働契約法」の最大の改善点は、派遣先の労働者との同一労働同一賃金の権利を明確にしたことである。この規定は派遣会社にどのような影響を与えたのか。派遣会社の対応は?

人民網の記者は、広東省内で営業する大手の派遣会社2社に対して潜伏調査を実施した。この2社は中国石油化工、中国モバイル、東亜銀行、ファーウェイなどの有名企業と長年協力関係にあり、改正法による不利な影響を「緩和する」方法がある称していた。

◆基本給を低く設定
規制回避の方法は多様

人民網の記者は派遣労働者を必要とする企業の担当者と称して紅海人力集団(以下「紅海」)、広東輝煌人力資源管理有限公司(以下「輝煌」)の2社の派遣労働担当者に問合せを行った。2社ともに同一労働同一賃金問題を技術的にクリアすることは難しくないと語った。

紅海によると、事業単位(日本で言う独立行政法人や特殊法人にあたる。大学、文化、放送、スポーツ事業体などの公的事業体。国有企業など生産活動を行うものは「企業単位」と呼ばれ区別される:訳注)であるならまったく心配することはない、定員内と定員外はそもそも異なるカテゴリーでの雇用になるので(同一労働同一賃金の必要はない)、派遣労働者の間で同一労働同一賃金であれば問題ないという。

輝煌も同じように心配することはないと回答。「基本給を低くしておけば大丈夫。基本給が同じなら、あとは業務能力の問題なので賞与(成果給的な性格がある:訳注)が違うのは当たり前ですよ!」

営業職など、記者からすれば派遣労働を導入してはならないと考えられるような業務についても、2社ともに「補助的な業務」として技術的にクリアできると答えた。

◆派遣から請負への転換
リスクは少なく利益は多い

記者が「法的争いを心配している」と伝えると、2社とも謀ったかのように業務委託への切り替えを推薦した。派遣方式の場合、派遣先企業は、派遣される労働者と派遣会社の両者と契約を交わさなければならずリスクが大きい。業務委託の場合、委託元と委託先との契約だけでよく、実際に働く労働者は委託先とだけ契約を交わすので、実際に労働者を使う企業(委託元)と実際に働く労働者は直接の雇用関係が生じない。派遣契約よりもリスクが少ないという。

もちろんリスクが軽減されるので、派遣よりも費用が若干高くなっている。

◆契約期間が短く流動性は大きい
期間に定めのない雇用契約は難しい

広東省総工会が発表した「2012年 広東省の労働者の状況に関する調査レポート」では、派遣会社と派遣労働者の労働契約の期間は短期のものが中心である。1年以内が24%、1-2年が45%、2-3年が26%を占める。大部分の派遣労働者は流動性が大きく、雇用の安定性は劣悪であり、しかも大部分の派遣会社は「労働契約法」で定められている「派遣会社は派遣される労働者と2年以上の期間に定めのある労働契約を結ばなければならない」という条項に違反している。これは期間に定めのない雇用の締結に直接影響を及ぼしている。(10年以上雇用されているか、雇用契約を2回更新すれば期間に定めのない雇用契約を要求する権利が生じる:訳注)

契約期間が満期になった場合、期間に定めのない雇用契約を締結するのかと2社に聞いたところ、紅海は、締結することは可能だが(労働者は)派遣先の企業とリスク負担などについて契約書を交わさなければならないと回答した。輝煌のほうはもっと正直だ。「そのときは別な派遣会社に変えてしまえばいいんですよ」。

◆質の悪い派遣会社
保険料問題や紛争での困難

広東省総工会のレポートによると、派遣会社の多くは社会保険に加入しているが、すべての保険に加入しているわけではなく、また納付率も低く、保険料算定基準も低く申請しているなどの状況が見られるという。それだけでなく、一部の派遣会社は遠隔地派遣(保険算定基準の低い地域の派遣会社を使う:訳注)を利用してコストを最大限圧縮しているという。

広州市人力資源社会保障局の責任者によると、広州市で働く派遣労働者の51.8%しか職場のある区の社会保険に加入しておらず、12.9%の派遣労働者が広州市内の他の区で保険料を払っており、3.2%は他の省で保険に加入している。

このほか、派遣会社の経営の質や経営範囲、業務能力やサービス内容などに対する効果的な管理ができておらず、一部の小規模な派遣会社は「羊頭狗肉」であり、労働者の権利を侵害するケースがあり、それは法律紛争などの潜在的リスクになっているという。広東省総工会の担当者は、改定労働契約法では、派遣会社の登記資本の規模を200万元以上とするなどの変更をおこなったことから、これについての状況は改善するだろうと期待する。

しかし、争いの際の証明責任など、派遣労働者の権利を守るためにはいくつものハードルがあることも確かである。仲裁や裁判などの争いになった場合、複雑な雇用形態ゆえに、一つの事案に3つも4つも会社が関係することにもなり、派遣労働者が自らの権利を守ることはさらに難しくなる。

◆二次派遣の濫用と混乱現象

新旧「労働契約法」62条では「派遣先企業は労働者をさらに別な派遣先に派遣してはならない」とある。しかし、派遣会社による再派遣、派遣先転換、二次派遣などの明確な規定はなく、これらが企業に濫用されている。

広州市人力資源社会保障局の担当者によると、広州市では上記のような二次派遣が見られ、雇用関係が複雑化しており、労使紛争での混乱がみられるという。また一部の企業では、(解雇の際の)経済補償金の支払を回避するために派遣労働を導入しているという。これらの行為はどれも労働者の権利を侵害するものである。

シリーズ:混乱する広東省の派遣労働市場
【その1】広東省の派遣労働者の生存状況:大きな収入格差、綱渡りのような不安定な雇用
http://gd.people.com.cn/n/2013/0704/c123932-18996748.html(中国語)
【その2】広東省の派遣労働者は163万人 80年代以降に生まれた青年が主力
http://gd.people.com.cn/n/2013/0704/c123932-19005564.html(中国語)


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