JCLIF レポート

山猫ストの圧力で新労働法を準備する中国

  エレン・ディヴィッド・フリードマン   2013年11月27日 米・レイバーノーツ紙

  英語原文

(エレン・ディヴィッド・フリードマン:元労働組合オルグ。現在は、中山大学(広東省広州市)国際共同労働研究センター客員研究員)

写真キャプション:南海(中国広東省)のホンダ労働者たち。2010年の自動車産業労働者の一連のストライキは、団体交渉や組合役員の民主的選挙による選出といった改革をもたらした。今、政府は団体交渉法規を作成しようとしているが、それはストライキを非合法化するものでもある。

翻訳:和田智子(レイバーネット国際部・広州労働研究交流団員)


中国が外資導入を始めてから30年以上経った現在、山猫ストが月を追うごとに急増している。 ストを行っているのは、労働組合やワーカーセンター、メディア、法制度、政府の介入といった方法で自分たちの利益を代表させることができない労働者たちである。 電子産業から医療保健まで、あらゆる業種の労働者たちが、時給2ドルという低賃金のゆえにやむなくストに訴えて続けている。

このむき出しの抵抗を受けて、多くの雇用者たちは、ストに訴えた労働者からの経済的要求を受け入れてきた。賃金は普通最低賃金だが、残業代や加入を義務付けられている社会保障の費用はきちんと払われないことが多い。したがって労働者たちの要求はしばしば、法に認められている分をきちんと出してくれ、というものに過ぎず、雇用者側がこの要求を受け入れることは難しくない。

地方政府は、争議を収束させようと雇用者に圧力をかけることもあるが、逆に運動を行う労働者を弾圧したり、罪に問うたりすることもある。近年、中央政府は労働関係を法的枠組みの中に収めることに全力を挙げている。直近の例が、9月に公表された「広東省団体交渉条例」案である。

広東省は中国の産業経済の心臓とも言うべき省で、電子機器から薬品までのさまざま輸出品が、劣悪な労働条件の工場で生産されている。香港のすぐ北に位置し、歴史を通じて中国の外界との接点であり続けていたことから、広東は実験的なことがらへの許容度が比較的高い土地柄である。

「広東省団体交渉条例」案(市民の関心が高く批評が多いことと、香港ビジネス界が一致して抵抗していることが原因で遅れている)は、労働者の声を届かせるための下からの突き上げを反映している。

労働者の声を代弁する仕組みの欠如

中国では、1990年代初めの、欲得づくの資本主義がしたい放題を許され、激しい労働闘争が勃発した時期から、労働関係に関する法的枠組みの構築を行っている。例えば、1994年の労働組合法には、経営側と、中国で唯一合法的な、公式の政府系の組合との間で”団体協議”を行う際の指針が盛り込まれている。

しかし、各単組の役員はほぼ例外なく経営側によって、経営側の人間から指名され、労働者参加の方法が実質的にはないという労働組合であるので、どうなるかは見えていた。なんらかの団体協約があっても、それは法に定められた最低限の賃金、残業代、社会保障を文章化しただけのものだ。しかも、その最低限ですら、往々にして、認可されないストライキや争議によって勝ちとらなくてはならないものなのである。

2008年に個別契約権、争議の解決、雇用差別などについての数種の労働法規が成立し、束の間希望が感じられた。労働契約法は、ほとんどの職種の労働者について長期契約を結ぶことを義務付けて、雇用の安定を図ろうとした。

これに対して、雇用者側が無期雇用の労働者を解雇して、下請けや派遣業者を使っての非正規雇用を増やしたり、職業訓練高校から調達する学生研修員を大幅に増やすことで、法の目的を骨抜きにしようとしたのは、驚くにあたらない。2008年以来、こういった非正規労働の拡大は目覚しく容赦ないものだった。

法律よりストのほうが物を言う

一方では政府が法の執行を徹底できず、他方では雇用者が素早く計算づくの戦略で法を骨抜きにしようとしたために、”法の統治”への信頼は、特に労働者とその支援者たちの間で急速に失われている。しかしそれとは対照的に、ストライキは勝利をもたらし続けている。

そのことが最もはっきりと表れているのは、2010年広東省の自動車業界で起きた、一連のストの結果起こったことだ。この連鎖ストライキは、南海ホンダの工場から始まって数百の工場に波及し、中国大陸でのホンダ車の生産を2週間近くにわたって全面的にストップさせたものである。この一連のストライキの結果、数百の自動車工場がある工業地区の全域で、職場の労働者(特に農村からの出稼ぎ労働者)による民主的な直接選挙によって工場レベルの労組役員を選出するなどの改革が実現した。

それからさらに、(おそらく中国では広東省にしかいない)市や省レベルの改革志向の組合指導者が啓発されて支持を与えたことにより、直接民主選挙で選ばれた労働者代表たちは、雇用者側に対して本物の団体交渉を持つことを迫り、その結果、昇給が実現し、以前と比較にならないほど労働者が定着するようになった。

極めて特異で、おそらくは他の地で再現することはできないだろうし、しかもまだもろいものだが、間違いなく、一つの省の一つの産業において工場所有者と労働者の力関係に変化が生じたのである。労働者の集団行動が実際に”下からの労働規制”をもたらしたのだ。

諸刃の剣

上述した背景があって、また、徐々に賃金を上げていけば労働者が騒ぎを起こすことが減っていくだろうという希望のもとに、広東省政府はこの時期に起こったことから得られた教訓をまとめあげようとしているようだ。現在検討されている「広東省団体交渉規則」案は、労働者の声を取り込み、公式な労働組合の支配と独占を強化し、また、交渉を、労働者によるストや雇用者による独裁よりも好ましいものとして正当化する、政府主導の戦略であると見ることもできる。

団体交渉規則にはこうした互いに矛盾する可能性がある目的があるため、批判的な立場の人々も積極的に推進している人々も、条例案を綿密に精査することとなった。労働者にとって、以下のような点は明らかに有利なことである。
・団体交渉を要求し、実行するための手続きを規定する
・交渉委員会に労働者の代表を選出できる可能性がある
・”不信任”投票によって、組合役員を交代させられる可能性がある
・労働者たちが交渉提案の作成や交渉結果の検討に関与できるようになる
・組合代表に特別先任権を付与する
・不当労働行為から守られる
・雇用者には、交渉過程で財務情報を開示することが義務付けられる(雇用者たちが特に抵抗しているのはこの条項である)。

しかしその一方で条例案には、労働に絡んで混乱を起こした場合労働者は刑事訴追されるとか、法を犯した場合に課される罰則が、雇用者側と労働者側とで非常にバランスを欠いているといった全く恐ろしい意味合いのある規定も盛り込まれている。

条例案の第31条は、交渉期間中のストライキや怠業闘争を禁止している。『交渉期間』はことによると200日以上にもわたるかもしれないことをひとまず置くとしても、ストに言及しているということ自体が驚くべきことだ。中国の法律では、ストライキ権は許可も禁止もされておらず、現行の労働法には、(労働組合法の、論議を呼んでいるある一条項を除いては)ストライキについてはっきり言及している規定はない。

したがって、禁止という文脈でストライキに言及していることから、労働者の権利を提唱する活動家たちは、この条項を先例として、労働者の抵抗をさらに制限し、違法なものにしていくために用いられるのではないか、と警戒している。

この新しい条例は、労働運動に携わる労働者に厳しい問いを突きつける。その問いとは、”法の統治”はもっぱら労働者を支配するために行使されるのか、それとも労働者自身にも使える手段であるのか?というものであり、また、労働組合を通じて要求を訴えるということができず、法律は全く手の届かない所にあるかに見える数多のインフォーマル雇用や不安定雇用で働く労働者にとって、こうした法改正はどのような意味を持つのか?という問いである。

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