天津の爆発事故:知っておくべき五つの事柄(その3)

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文:左楠    原文

【四】 爆発現場は東疆保税港区だが、保税区とは何か?

天津保税区は1991年5月12日に国務院の批准で設立された。面積は5平方キロで、中国北部最大の保税区。保税区は高度に解放された特別経済区域で、国際貿易、現代物流、加工区、展示即売の四つの機能を持ち、税関手続き、租税、為替などで優遇がある。つまり海外からの輸入あるいは国内からの輸出において、関税面で優遇をうけることができる。ゆえに保税区の倉庫や物流産業の成長はすさまじい。保税区に加工工場をつくり、原材料や半製品の輸出入など一連の活動を手掛ける企業もある。

このような優遇政策によって、数多くの民間企業や外資系企業が事業所を設立している。長年にわたり天津保税区の取扱貨物量の成長速度は30%以上を維持してきた。保税区内にある500社の物流企業と3000社の貿易企業は、世界100カ国以上の地域との貿易を行ってきた。渤海地域ないし中国北方経済の発展において重要な役割を果たしてきた。化学工業と危険化学品は天津保税区における十大市場の二つの重要な構成要素となってきた。

近年における国内市場のさらなる開放にともない、国際的に知名度の高いケミカル・カンパニーも中国に進出し、中国の安価な資源と労働力を利用して、ハイリスク化学製品の抽出や製造ラインを中国に移転している。これが多くの都市部の郊外に化学工業が集中する現象を招いてきた。保税区の利点を生かして、値段があがって国内外の市場で商品を販売するまで、製品、半製品を一時的に保管しておくことができる。こうして多額の差額利益を得ることができる。この方法を通じて、外資は巨額の利益を得るだけでなく、生産リスクを中国という発展途上の国に転化することができる。保税に高く積まれた時限爆弾のようなハイリスク化学製品はこのような背景がある。

このような優遇政策の存在、このような時限爆弾の危険が隠されている状況のなかで、安全衛生上の知識を強調するだけでは問題は解決できないだろう。

【五】 危険化学製品の爆破は偶然の事件なのか?化学工業の発展が罪なのか?

今年の八カ月だけで、化学工業工場の爆発事件は中国各地で発生している。

7月16日7時30分、山東日照石大科技石化有限公司で液化石油ガスタンクが漏れて爆発。
6月12日21時15分、南京化工業団地の徳納化工廠で火災が発生。現場では連続して爆発が発生し、近隣住民は振動を感じた。

4月12日、南京揚子石化廠で爆発。上空が濃煙で覆われ刺激臭が蔓延。

4月6日、福建漳州古雷のパラキシレン・プラントで爆発事故。近隣の住民が振動を感じる。炎が夜空を照らし続け、濃煙が蔓延した。

このような連続する工場爆発事故は、すべて全くの偶然だとは言えない。このような化学工業による都市化の背景には、先進国から途上国に輸出される労働集約型、環境汚染型、高度危険型の工業という問題がある。同時にこの三つの特徴をもつ化学工業産業は高い利潤を得ることができる。これもこの産業に外資系企業や地方政府が集中する理由である。

化学工業の発展は危険しかもたらさないのであろうか。歴史を振り返ると1950年代から60年代にかけての三線建設[核戦争を耐え抜くために内陸部=第三線に工業地帯を建設した]の過程で、西部地区[内陸部]の建設のために工業先進地域から多くの労働者が西部地区に送られて、化学工業工場を多数建設した。今日、この地域の都市部の発展は、この時代の化学工業工場を基礎にしている。もちろんその過程で事故も発生したが、今日の頻度や規模とは比べ物にならない。またかつては労災補償も比較的しっかりしており、遺族の雇用保障もあった。同じ化学工業であっても、かつては「化学工業による都市建設」であり、現在のように「化学工業が都市を包囲する」という状況ではなかった。

化学工業の発展は科学技術の発展である。科学技術の発展を拒否する国はないだろう。しかし科学技術は誰が発展させるのか、誰為に発展させるのかが、それが「建設」となるのか「災厄」となるのかを決める。われわれは化学工業が包囲する都市化それ自体への批判と反省しなければならないが、資本による化学工業の発展、利潤が一切を上回るあり方、安全さえも利潤に従属するあり方が、事故を頻発させており、それこそ「化学工業が包囲する都市」の悪夢であることを認識しなければならない。