ジェンダーからみた労働人権活動家の逮捕について

こんにちは。会員のいながきです。つづけて中国労働人権活動家への弾圧の話です。

早期釈放をもとめるメッセージ・フォトアクションですが、支援団体のfacebookをみてみたら、中国国内の労働者やフェミニストやLGBTのみなさんも参加しているようです。
https://www.facebook.com/freechineselabouractivists/
(facebookにログインしないと見れないようです)
ということで、今回の弾圧を少し違った視点で論じた文章があったので訳してみました。

80年代に農村から都市部への出稼ぎ娘たちは「打工妹」と呼ばれてテレビドラマなどにもなりましたが、過酷な労働条件や危険な環境、そして性暴力の被害など、経済発展の影に彼女たちの苦労がありました。「中国の夢」へむかう「新常態」のしわ寄せが、彼女たちに襲いかかっているようです。

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ジェンダーからみた労働人権活動家の逮捕について
2015年12月27日

  原文

12月3日に逮捕され他労働人権活動家のなかで、朱小梅だけが女性だった。しかし今回の弾圧は、多くの女性労働者にとって極めて甚大な影響を及ぼすと言えるだろう。

◎ 女性労働者が社会保険の加入を要求することは不可能な要求なのか?

労働人権家たちにたいする新華社と中央テレビによる中傷報道のなかで、「番禺打工族」の成功事例―――利得工場の労働者たちの活動が紹介されていた。

中央テレビのニュースには逆光で顔がわからないようにした利得工場の管理職が登場し、「打工族」が労働者たちに対して実現不可能な要求を提起するようけしかけていたと発言した。そのあとに中央テレビのナレーションはこう続けた。

「労働者らが突然の要求しだした社会保険料の追納についても、非常に突然の感じを受けた。工場経営者は工場労働者らの要求が筋の通らないものだと感じたが、生産活動を一刻も早く再開させるために、社会保険料の追納以外にも労働者らが要求していた訴えも補償することにし、在職年数1年につき500元を追加で支払うことに合意した。しかしその通知を張り出したとたん、労働者たちはすぐに第二波のストライキを打ったのである。今度は住宅積立金の補充積立を要求するストライキであった。」

中央テレビのこのナレーションを聞いて、本当にはらわたが煮えくりかえるような思いに駆られた!

工場が社会保険に加入していなかったこと、法律で定められたように在職年数一年ごとに一か月分の賃金額の補償金を支払っていなかったこと、時間外手当が支払われていなかったこと、高温手当が支給されていなかったこと、住宅積立金が積みたてられていなかったことについて、中央テレビはただの一言も批判することもなかった!それどころか平然と「工場経営者は工場労働者らの要求が筋の通らないものだと感じたが」などというのである。

労働者の要求はすべて我が国の最高権力機関である全人代が制定した「労働法」と「労働契約法」に基づいて提起されたものである。しかるに中央テレビは経営者の肩をもって、これらの法律さえもが「筋の通らないもの」だとでも言うのだろうか?結局のところ誰が国家の安全を脅かしているのか? 国家と対峙しているのはどっちのほうなのだろうか!?

この利得工場の争議は孤立した案件ではない。

中央テレビは利得工場には3000人ほどの労働者がいたと述べている。実際のところ、このうちの約七割が女性労働者であった。利得工場のように、多くの女性たちが社会保険料の追納を訴える事件は、珠江デルタではここ数年めずらしいことではなくなっている。「打工族」がかかわった案件のほとんどで、多くの女性労働者が社会保険料追納を要求するのが特徴であった。

2013年、広州中医大学第一付属医院の100名あまりの看護師および警備員は、「打工族」の支援のもとで92日間に及ぶ集団争議をたたかい、社会保険や派遣労働などの問題で団体交渉を行った。労働者のうち女性は80名あまりを占めていた。ついでにいえば、今回逮捕された孟晗はこのときの争議に参加した警備員の一人だった。この争議で彼は冤罪で1年近くも刑事勾留されたのだが、中央テレビの報道ではそれが彼の犯罪歴として紹介された。[この争議への弾圧で孟晗は9カ月の禁固刑の判決を受けた:訳注]

2014年には、100名あまりの広州学園都市の清掃労働者らが「打工族」の支援の下で、雇用契約変更の問題で補償金を要求した。労働者の八割以上が女性だった。この争議では社会保険料の問題は提起されなかったが、じつは労働者たちは数年前に一度、社会保険料の問題をめぐって争議をおこない解決していたのである。つまり雇用会社が社会保険料で違法行為をしていなかったというわけではないのである。

2014年、広州軍区医院の看護師と清掃労働者80名弱が、「打工族」の支援の下で、集団的争議を行い、医院と派遣会社に対して社会保険料の追納を要求した。このときの労働者のほとんどは女性であった。

2015年の新生靴工場での争議でも多くの女性労働者たちが社会保険料の追納を要求した。

「打工族」のかかわった案件をここで逐一くりかえしはしない。彼らのウェイボー[中国のツイッター]を調べれば、かれらが発した争議資料を見つけることができるだろう。「打工族」は強いジェンダー意識があるわけではなかったので、争議案件ごとの性別比率をはっきりと明記してはいないが、団体交渉員の性別比率をみれば、だいたいの状況が分かるだろう。

もし曽飛洋、朱小梅、孟晗、彭家勇、鄧小明らがかかわった争議案件だけでなく、さらにひろく珠江デルタにおける近年のストライキをみれば、「女性労働者が社会保険を要求する」状況は、近年の珠江デルタにおけるストライキの常態(ノーマル)である。

しかし社会保険料の追納を実現するには何重もの困難がある。広州軍区医院の争議を例にしてみよう。2011年、この病院の清掃労働者(女性)が社会保険料の追納を求めて訴訟を起こした。最終的に3年かかって追納を勝ち取った。そして2014年にはこの病院の80名あまりの女性労働者が集団争議の形式で社会保険料の追納を要求し、最終的に社会保険料の追納を勝ち取った。しかし、いまになって保険料は広州市の基準で納付してきたが、制度設計のせいで、ふるさと(戸口=住民登録地)での基準でしか老齢年金を受け取ることができない可能性が高いことがわかった。深センでは、社会保険料の追納は2年以上さかのぼれないという行政側の内規さえある。

労働者が社会保険料の追納を要求し、打工族が労働者の社会保険料追納の要求を支援しているが、それは経営側の利益に手をかけるというだけにとどまらない。社会保険のなかの老齢年金は、一部の地方政府にとっても大きな財政問題となっているのである。社会保険料の追納という女性労働者の訴えは、たんに労使間の問題だけではなく、中国資本主義経済の弱い環を揺さぶっているのである。

◎ 社会保険料の要求を掲げるのはなぜ女性が多いのか

その理由はまずは、人口のベース・データーに規定されている。深センを例に見よう。

2013年に南都ネットに掲載された文章「“若い娘”を雇うのが難しいなら“おばさん”でも構わない」では、深セン市職業紹介サービスセンターの副主任にインタビューしている。彼によると「十数年前の深センの工場では男女比率は1:9だった。生産ラインの主力は若い女性たちだった」。それが2012年になると、深センにくる若い世代の農民工の男女比率はおおむね半々になったという。しかし深セン大学法学院、深セン大学労働法・社会保障法研究所の曜玉娟所長によると、一般工など低技能の職種では企業は女性を雇用する傾向が強いという。

分かりやすく言うと、工場のなかや、多くのサービス業(たとえば清掃工)の最底辺の職種の多くは女性が担っており、彼女らがキャリア・アップする可能性はほとんどない(アパレル、靴、電子部品などの業種では女性の割合が極めて高い。機械や金属などの業種では男性が比較的高いが、全体として女性の割合が高い)。

老齢年金の法的問題では、深セン市は1987年から戸籍のないものも老齢年金に加入できるようになった(広州市は1998年から)。しかし2008年の「珠江デルタの農民工 退職して社会保険からの離脱が増加」という記事によると、深セン市では15年後に養老年金を受給できるものはわずか100人あまりだという。

1987年から現在まで28年が経過した。かりに18歳の女性が1987年に深センに出稼ぎにきたと仮定すれば現在46歳である(現在、深センの工場の募集は18~24歳の女性限定が多い)。深センは80年代には出稼ぎブームを迎えていたことから、この最初の「女工」たちは現在50歳定年という問題に直面しているのである。(※)

(※)中国では一般的に女性50歳、男性60歳が定年年齢(訳注)

これが近年、多くの女性労働者が社会保険の加入を要求している理由である。つまり最初の出稼ぎブームの女性労働者たちが退職年齢に近づくにつれ、突如として退職してからの老齢年金を受け取れないことに気がついたからである。

老齢年金は、男性労働者よりも女性労働者にとって、より大きな意義がある。

何も年金制度が女性の状況をより考慮して制度設計されたということではない。それは中国の女性労働者が、家を離れて都市部に出稼ぎにきてはいるが、家庭における家父長的な抑圧からは自由ではないということである。

女性労働者にとって(とりわけ80年代に出稼ぎでやってきた女性労働者にとって)、結婚するまでは、その稼ぎは実家へ仕送り、親や年寄りの生活に、あるいは弟や妹の生活費や学費にあててきた可能性が極めて高い。結婚すれば夫と一緒に貯金を蓄えて、いつか故郷に家を建てるための資金に充てる。たとえその不動産の名義人になれないとしても、である。子どもが生まれたら、賃金の大部分は子どものために使うことになるし、都市部で養育するのであれば出費は巨額になる。

こういった事情から、現場ラインの女性労働者は退職する年齢になっても取るに足らない貯金しかないことは容易に想像できる。仕事が続けられればなんとか自分の食いぶちくらいは稼げるだろうが、家は夫が所有権を持っているし、子どもが親を養うなんて、そもそもいまの状況ではありえないだろう。

女性労働者が稼いできた賃金は、資本が搾取したあとの残りであり、それはわずかな賃金であり、しかも父親の家庭、夫の家庭、そして父系社会における子ども(そしてその家庭)に無償で奉納しなければならないのである。このように明々白々な家父長制を中心とした財産所有制度において、女性労働者の老後の生活問題は男性労働者以上に深刻なのである。

老齢年金を受給できなければ、頼るれるのは伝統的な家庭による養老モデルしかない。しかしこのモデルは、家父長制的財産制度と緊密に結合しており、その生活上のリスクの大部分は女性の身の上に降りかかる。財産の男性集中は(その総量はわずかとはいえ)、家庭における女性の地位を弱めるとともに、家族解消がもたらすリスクを受け入れることを難しくさせる。それによって女性の家庭依存を余儀なくさせ、生活における家父長制がもたらす様々な蛮行を耐え忍ぶことを余儀なくさせる。

中国では、農村女性の自殺率が他のグループよりも高い。2014年に香港大学が公表した研究レポートによると、中国農村の35歳以下の女性が90%も減少した。だがこの数字は中国が農村女性に対する心理的補助活動によるものではない。その最大の理由は大規模な人口移動による。つまり大量の農村女性が都市部への出稼ぎを選択したことで、数字の上では中国の農村女性の自殺率が激減したのである。それは農村の環境が改善されたことによるものではない。

だがこれら多くの女性労働者が退職年齢を迎えつつあるが、仕事を辞めるわけにはいかない。あるいは故郷の農村に戻って家庭養老モデルに頼って、家父長制的抑圧を耐え忍ぶしかない。もし農村の状況が改善されないとすれば、ふたたび農村に戻った女性たちは新たな問題に直面することになる。中国の農村女性の自殺率の行方が危ぶまれるかもしれない。

社会保険だけでは女性の問題を根本的に解決することはできない。しかしそれでも女性労働者が独立して自活することを保障することはできる。このような観点からみれば、12月3日に拘束された労働人権活動家たちは、女性労働者の経済的利益のために活動というだけでなく、女性たちが家父長制の抑圧に対してひるむことなくちょっとでも自信を持てるような女性の経済的自決権のためにも活動していたといえるだろう。

(以上)