日中社会主義フォーラム(第5回)ー社会主義の理論や現状について活発に議論

3月5、6日の2日間東京三田の慶応大学で日中社会主義フォーラムが開かれ、日中の学者研究者ら100余名が参加して社会主義の理論や現状について活発な議論を行った。このフォーラムは2008年から始まって今回5回目で、主催は社会主義理論学会。改革開放を掲げて急速に発展した中国経済は現在成長率の低下に直面している。習近平政権は新しい経済社会目標として「新常態」(安定成長)を掲げているが、今後安定成長が続けられるのか。また中国の社会は格差の拡大や農村の貧困など多くの問題が表れている。中国側・日本側各5人が理論的から現実的な問題まで全部で10のテーマ(下記)の報告と質疑討論が行なわれた。これらの報告の中から私が興味深く思った点を記してフォーラムの一端を紹介したい。
onisi第1番目の報告者、大西広(慶応大学)氏は「投資依存型経済からの脱却と『中成長の罠』と題する報告で、「マルクス派最適成長モデル」を使って分析した結果「現在の中国は40年前の日本と同じ発展段階にある」として、このまま続けば1933年頃にゼロ成長に到達すると予測して根本的な対策を考えるべきだと提起した。次に、「民主、社会主義と市場」と題する報告で張光明(北京大学)氏は、市場経済とともに発展した「民主はひとたび政権を奪取すると放棄しても良い政策手段では決してなく、未来の社会主義制度の基本的存在条件」ととらえ、「社会主義者は市場を支持すべきである」と主張する。この点は聴涛弘(元参議院議員)も同じ考えのようで「個人消費に関する分野は市場経済にまかすことが必要である」(「社会主義の多様性か混乱か」)と述べている。

「中国特色社会主義の性質問題研究」と題して報告した邱海平氏(中国人民大学)は、新中国建設以来の経済発展は1992年に分水嶺として「社会主義市場経済体制」が目標とされ、国有企業の民営化はじめ市場経済化が全面的かつ急速に進められ、持続的な高度成長を遂げてきた。しかし、2012年以来中国経済成長は減速し、「新常態」に入った。そして、現在直面する根本的な問題は、今まで進めてきた「資本主義の道歩むことによってあらゆる社会矛盾のより進んだ先鋭化と表面化が引き起こされることが避けられるかどうかである」と述べ、現在の中国を「安定した社会形態に向けて発展する過渡期」ととらえている。

王進芬 氏
王進芬 氏

同じく「中国特色社会主義」を分析した王進芬氏(南京師範大学)は、マルクス・エンゲルスの提起した社会主義と中国社会主義の現実の以下の3つの相違を指摘する。1つは、中国の社会主義は資本主義が未成熟な状態で出発したのでマルクスが説いた共産主義の前提となる生産力や生産関係がまだ存在しなかったこと。2つ目は、ソ連型社会主義との相違で、高度な集中に基づく指令型の計画経済やスターリンの個人崇拝などと中国と異なる。そして、文化大革命の失敗は毛沢東がソ連の集権制をまねた結果だと説いている。3つ目の違いは「改革開放以前の中国社会主義」との違いであり、「毛沢東時代の社会主義の”止揚”である」と述べる。会場から中国の社会主義的要素はどこに存在するのかという質問に対して、王氏は古典的なマルクス主義概念での社会主義は存在しないと答えた。

瀬戸宏氏
瀬戸宏氏

最後の取り上げたいのは瀬戸宏氏(摂南大学)の「重慶事件と重慶モデル再考」である。「重慶モデルとは、中国共産党17期政治委員、重慶市書記で2010年に失脚した薄熙来が重慶市書記在任中に実行した政策体系である」。中共中央は、薄熙来失脚後重慶モデルを路線、理論問題として語ることを禁止し、彼個人の規律違反として処理した。瀬戸氏は重慶市で行った彼の政策を検証した後、この事件を中国共産党内部の深刻な路線対立だとして、政権党内部に路線・見解の相違が生じるのは正常な現象と述べている。この主張に対する中国側出席者の回答は瀬戸説を否定する意見や一部肯定する意見などさまざまであった。この問題について中国においてまだ論議が定まっていないことを示しているように思える。

以上、興味のままに論議の一部を取り上げたが、中国が重要な転換期にある中でこのフォーラムが社会主義のあり方を日中で共同で議論する重要な場であると私は痛感した。

(注・議論の紹介はフォーラムでの報告とレジュメに基づくが、文責は筆者にある)

<日中労働情報フォーラム会員 高幣真公>

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第五回日中社会主義フォーラム
(第五届日中社会主義論壇)
テーマ:中国社会主義の多様性
日時:3月5日(土) 3月6日(日)
会場:慶応大学三田校舎北館3F大会議室
主催: 社会主義理論学会 

<プログラム>
3月5日(土)
開会挨拶 瀬戸宏
■ 大西広(慶応大学教授)
高成長から中成長に向かう中国-マルクス派最適成長モデルによる予測
■ 張光明(北京大学国際関係学院教授)
民主、市場と社会主義
■ 聴濤弘(国際問題研究家・元参議院議員)
社会主義の多様性か混乱か
■ 李延明(中国社会科学院マルクス主義研究院研究員)
柳暗けれども花明るくまた一村:自然主義のマルクス主義
■ 田上孝一(立正大学講師、社会主義理論学会事務局長)
マルクス理論の基本構造──マルクスのマルクス主義のために──
3月6日(日)
■ 鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授)
株式会社は社会主義の必然的通過点か-中国・株式会社の基本的問題点
■ 邱海平(中国人民大学経済学院教授)
中国特色社会主義の性質問題研究
■ 松井暁(専修大学教授)
マルクス主義と三つの倫理学
■ 王進芬(南京師範大学公共管理学院教授)
中国特色社会主義を理解する三つの次元
■ 瀬戸宏(摂南大学教授)
重慶事件と重慶モデル再考
中国側閉会挨拶 李延明
日本側閉会挨拶 大西広

<過去の日中/中日社会主義フォーラム>
日中社会主義フォーラム(2008) 
中日社会主義フォーラム(2010)
第三回中日社会主義フォーラム(2012) 
第四回日中社会主義フォーラム(2013)