5月5日の朝日新聞「異論のススメ」で京都大学名誉教授の佐伯啓思氏が「平
和を守るため戦わねば」と書きました。国際情勢が変化したのだから、「平和を
愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」(憲法前文)
するという非武装平和主義ではいかなくなった。平和を守るためには、その侵害
者に対して身命を賭して戦うことは、それこそ「普遍的な政治道徳の法則」では
ないだろうかと言うのです。
佐伯氏に反論して、日中労働情報フォーラムの会員である内田雅敏弁護士が、
5月20日の朝日新聞「私の視点」に「民衆は戦争を望まない」を書きました。
内田弁護士の当初の文章は、もう少し長かったのですが、スペースの関係で掲載
された文章になったようです。
この紙上論争を紹介しようと思い、それぞれの新聞のコピーと内田弁護士の文
章を私がワードで打ったものを送ります。
総会でも議論になりましたが、なぜ日中の友好が進まないのかという問題はい
まの政治状況にあります。日中労働情報フォーラムは、労働問題に関心を持ちな
がら、日中友好を促進しようとする組織であり、特定の政治主張を持った集団で
はありません。ですが、日中関係の歴史を知らずして友好も語れません。反中、
嫌中と言って、日中関係について関心を持たない人に、少しでも関心を持っても
らうために、私たちも勉強したいと思います。
突然、内田・佐伯論争を紹介することになりましたが、憲法改正をめぐる基本
的な論争だと思います。
内田弁護士から、朝日新聞のデスクと間で「日中間の戦争は終結したのか」と
いう議論があったことも聞かされ、新聞記者の認識のレベルの低さにも驚かされ
ましたが、それ以上に若い人は中国に関心を持っていないと思います。
さて、佐伯氏の主張は「国際情勢が変化したのだから、9条の侵略戦争の放棄
は良いが、自衛戦争は認められるべきだ」と言うものです。私は佐伯氏の考え方
には反対ですが、この主張はかなりの人に受け入れられる可能性があると思って
います。
旧来型の非武装平和主義は少数派になっていたのではないでしょうか。佐伯はこの非武装平和主義者に攻撃を仕掛け、安保法制反対の人の中からも改憲に賛成する人が現れること、安保法制違憲訴訟運動の弱体化を狙っているように思います。今までの改憲論者が「アメリカの押しつけ憲法反対」「自主憲法制定」と言っていたレベルとは異なる次元を提起してきたように思います。
私自身は、自分が旧来型の非武装平和主義者に当てはまると思っています。そ
の意味では、日中戦争をどう反省するのか、日本国憲法をどう捉えるのか、さら
に勉強して、中国を敵国とする考える改憲論者を批判し、日中不再戦の誓いを新
たにしたいと思います。
伊藤 彰信 (日中労働情報フォーラム代表)
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資料:
◆ 朝日新聞「異論のススメ」(2017/5/5)「憲法9条の矛盾 ―平和を守るためには戦わねば」佐伯啓思氏
◆ 朝日新聞「私の視点」(2017年5月20日)「異論のススメ」に異論ー民衆は戦争を望まない」内田雅敏