(「共同通信」 2020年03月10日)
新型コロナウイルス感染症の拡大を理由に、埼玉県越谷市の製造会社が、中国人技能実習生の女性(33)に2月付の退職を通知していたことが10日、関係者への取材で分かった。中国に一時帰国し、訪日規制の対象外地域にいたため日本に戻れた女性に対し、待機を指示。その後、実習中断と退職の同意確認書を送った。女性は退職に同意していない。労働問題に詳しい弁護士は「不当な退職勧奨だ」と指摘している。 感染拡大の先行きが見えない中、こうした立場の弱い労働者への不利益な扱いが増える恐れがある。外国人労働者の支援団体は、女性の例は氷山の一角とみて情報提供を呼び掛けている。
相談を受けた外国人労働者救済支援センター(岐阜県羽島市)の甄凱(けん・かい)所長によると、女性は実習5年目で、ことし5月まで働く計画だった。1月24日、春節(旧正月)に合わせ中国・大連に帰国。日本へは2月10日に戻る予定だった。
日本政府は1月31日、感染拡大が深刻な湖北省に滞在歴のある外国人に対し入国拒否を表明。湖北省に滞在歴のない女性は、その時点では予定通り日本に戻れたはずだったが、会社側が翌2月1日に待機を要請。女性は飛行機の予約をキャンセルした。
3月に入り、会社から「技能実習一時中断についての意思確認書」が届き、署名を求められた。会社と女性が払う社会保険料の負担を避けるとの名目で、2月10日付で退職扱いとすることも記していた。女性は甄氏らに「日本に戻りたい」と相談。実習の一時中断には納得したが、退職には同意していないという。
共同通信に対し会社は「取材は断る」、監督機関の外国人技能実習機構は「個別案件には言及できない」としている。
外国人労働者の問題に詳しい指宿昭一弁護士は、予定通り日本に戻れたはずの女性が実習を中断したり、退職に同意したりする必要はないと指摘。「会社の対応は女性に不利益を押しつける内容で、不当な退職勧奨。会社の指示で待機したのだから、復帰予定以降の賃金は支払われるべきだ」としている。
外国人を「使い捨て」
NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事の話 会社が女性を休業させ雇用調整助成金を活用することもできたはずだ。監督機関の外国人技能実習機構も指導すべきだ。中国に行ったのが日本人従業員だったら、日本に戻って仕事に復帰できただろう。外国人技能実習生を「使い捨て」のように扱い「面倒くさいから切ってしまえ」という発想があるのではないか。こうした差別が、この会社だけでなく日本社会全体に蔓延していないか注視したい。