広東の労働NGO弾圧に関して中国中央テレビ(CCTV)がトンデモ報道

何度かお伝えしている広東省の労働NGOに対する弾圧事件。12月22日、新華社が「“労働運動の星”の栄光の背景を暴露する――番禺打工族文書処理服務部主任の曽飛洋らの重大犯罪事件容疑の調査報道」という記事を配信しました。

新華網

中国語ですが、新華社のウェブサイトで読めます。

上記ウェブではCCTVのモーニング・ニュース(「NHK朝のニュース」みたいなものかな)の映像もあわせて観ることができますが、なんと堂々24分の映像ニュースです。こんなトンデモニュースを朝から見せられた人民もそれを読まされたアナウンサーも災難です。

必見の映像です。

報道では、労働NGOの中心人物である曽飛洋がいかに労働者を食い物にしていたか、いかに扇動したか、そして乱れた金銭感覚と女性関係をあげつらっています。映像では曽飛洋が女性とビジネスホテルにチェックインする監視カメラの映像なども流されたり、押収品のポルノDVD(なのかどうか映像だけでは判別不可能)を映し出したり、事務所の家宅捜査、取り調べの映像などが流されています。香港の口座に500万元が振り込まれていたとも報じられています。

しかし逮捕の直接の容疑である「集まって社会騒乱を企てた」という容疑について、曽飛洋さんたちは争議支援の際には「目標設定」し、「組織動員」し、「集中研修」し、「騒ぎ(ストライキ)を扇動し」、「勝利を総括する」という、労働運動ではきわめてまっとうな活動をやっていたことくらいしか、報じられていません。

香港口座の500万元については「だからどうした?」という感じです。中国崩壊をたくらむ外部勢力のカネ、とでも言いたいのでしょうが、官僚たちが国内外でため込んでいる金額に比べたら鼻くそ程の金額。「陳独秀は日本からカネをもらっている」とねつ造した時代のやり方を思い起こさせます。

12月21日に行われた早期釈放を求めるグローバルアクションは、支援団体のfacebookに写真などが掲載されています。日本でもささやかですが連帯しました。

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本来は、新華社のトンデモ記事から訳すべきなのですが、心が腐ってきそうなので、それはやめにして、このトンデモ記事に対する反論があったので、とりあえず前半部分を訳してみました。あと半分はあす以降にでも。

以下の反論の原文はこちらです。

<稲垣 会員>

◆ 広東の労働NGO事件---
曽飛洋について知っておくべき真相

権利運動 編集 2015-12-23 10:11

新華社は12月22日に「“労働運動の星”の栄光の背景を暴露する――番禺打工族文書処理服務部主任の曽飛洋らの重大犯罪事件容疑の調査」を発表したが、それはいつもながらのレッテル貼りで、いくつもの穴がある文章である。

◎ 利得工場の労働者がどうしてストライキを打ったのか

この文章では曽飛洋が利得工場[靴工場]のストライキの「背後に隠れてコントロールした」と述べている。しかし実際には、労働者らによるストライキは会社側の長期にわたる権利侵害が引き起こしたものである。

番禺にあった利得工場では時間外手当、高温手当の不払いや有給休暇を与えない等の問題が長年続いてきた。しかも法律で義務付けられている社会保険加入や住宅積立金も行っていなかった。2014年初めに工場移転の情報が労働者に伝わった。2014年8月に利得工場の労働者が番禺打工族服務部に工場移転に伴う逸失利益について問い合わせた。その後、利得の労働者たちは権利を守るために三度にわたってストライキを打った。最初は14年12月6~7日。二回目は14年12月15~17日。三回目は15年4月20~25日。

最初のストライキの直接の原因は、会社が労働者に新たな雇用契約書にサインするよう迫ったことによる。手縫い班の部署の女性たちが率先してストライキを打ち、ほかの労働者もそれに続き、会社に対して工場移転問題について交渉するよう求め、会社が同意したことでストライキは終了した。

12月15日、団体交渉もないまま、会社は一方的に通告を出しいて「雇用年数一年に月500元(最高10年まで)」という条件で「残業代、高温手当、有給休暇等の補償とする」ことを通達したことが、労働者の怒りを買って二度目のストライキを引き起こした。これをうけて会社は交渉に応じることになり、最終的に労働者代表と「一年につき2000元(最高12年まで)」という条件を勝ち取り、さらに社会保険への加入も実現した。また15年4月には工場移転の情報を開示させることも約束させた。

しかし15年4月になっても工場移転の情報はいっこうに開示されず、4月19日には利得靴業工場の26名の労働者はホテルで会合を開いて、その月の末までに未納分の社会保険料と住宅積立金を支払わせる計画を立てようとした。そこに100名近くの特殊警察と補助警察がなだれ込み、労働者と押し合いとなり、多くの労働者が負傷し、そのうちの一人はその場で気を失った。それが労働者の怒りに火をつけて、翌日にはストライキがうたれたのである。

◎ 利得工場の労働者代表の高なにがしと李なにがしは、
どうして代表を罷免されたのか

新華社の記事では、利得の労働者代表、高なにがし、李なにがしが語った「ストライキの黒幕」について何度も引用されている。しかしこの高なにがし、李なにがしとは労働者を裏切った労働者代表として、三度目のストライキの前に労働者代表を罷免された人物なのである。

2014年12月6日、利得の労働者の最初のストライキで労働者が選出した労働者代表は13人で、この13人の労働者代表は会社と何度も交渉して、かなりの知恵を出してきた。12月18日に労働者が仕事に戻ったあと、労働者代表の多くが警察の取り調べを受けた。それ以降、高なにがし、李なにがしを含む5人の労働者代表は、ほかの8人の代表を距離を置くようになり、何度も会社や派出所所長と食事を重ねて、派出所の所長からも贈り物をもらっていた。

5月に移転業務を終えることを知っていた利得社の労働者は、2015年4月になんども労働者代表に対して各種補償に関する交渉の進捗を聞いたが、この5名の労働者代表は「安心しなさい、いま交渉中だが、けっして悪いようにはしない」と答えるだけだった。労働者からのさらなる追及をうけて、高なにがしは、住宅積立金は雇用年数一年につき200元」で話が進められていることを明らかにした。

これはほかの労働者代表や労働者たちから「子どものおやつも買えない」という不評を買った。労働者たちは5人の労働者代表が会社から何らかの便益や恫喝を受けているのではないかと考えた。社会保険料については、高なにがしは別の労働者代表に対して「ずるずる引き延ばしておけば、辞める連中も増えるだろうから、その時ときが潮時だ」と漏らしていたという。

4月19日、126名の労働者がホテルで会合を開いたとき、この5人の労働者代表は会合に姿を見せなかった。労働者たちは会合で5人の労働者代表の罷免を提起した。4月20日、ストライキを打つと共に、19名の労働者代表を臨時的に選出した。会社は交渉において、未納分の社会保険料の完納は2年かかる、住宅積立金の補償は1年につき200元(最高10年ま)の線を譲らなかったことから、労働者たちはストライキを継続した。

4月23日に南村鎮政府と会社が一斉に通告を出して、6月30日までに社会保険料を完納するとともに、4月30日には労働者らの預金口座に解雇補償金と積立金補償(200元/年)を振り込むことを通知した。何度も会社から裏切られてきた労働者は、補償額の上乗せを要求し、実際に振り込まれるまではストライキを続けることを決めた。4月25日、250元/一年(最高15年)に上乗せされた補償金が口座に振り込まれた。労働者はストライキを解いて、社会保険料の完納をさらに求めたことで、5月30日には未納分の保険料も完納させたのである。

◎ 労働者の利益に損害を与えたのは誰なのか

新華社の報道は「“労働者は苦労に苦労を重ねてストライキを打ち、さらに警察に捕まるというリスクまで犯したにも関わらず、権利を守るという本当の目的を果たすことができず、労働者の長期的な利益は損なわれてしまった”と李なにがしは何度も声を詰まらせた。」と書いている。

だが利得工場のストライキで、労働者の利益を損なわせたのは、ほかでもない罷免されたこれらの労働者代表ではないか。かれらはこっそり会社と合意して、社会保険料の納付を遅らせ、住宅積立金も200元/年(最高10年)で合意していたのである。もしこれらの労働者代表の罷免が遅れていたら、250元/一年(最高15年)という条件は勝ち取れなかったし、社会保険料もこんなに早く完納されることはなかっただろう。

新華社は「政府が直接介入することで、事態は鎮静化に向かった」と報道している。しかし、実際には、4月23日に鎮政府と会社が出した連名の通知だけでは労働者は納得しなかった。通告だけでピケを解かせて設備や商品を搬出してしまったら約束を反故にするのではないか、と労働者は疑っていた。だからその後も二日間もストライキを続けて、補償金が労働者の口座に振り込まれたのを確認してから、ストライキを解除したのである。

新華社は「工場はストライキによって巨額の債務を引き受けることができなくなって倒産し、経済的に安定する財源をなくしてしまったのである」と報じている。利得工場は5月に工場移転を完了させることを早くから決めており、労働者のストライキによって閉鎖したわけではない。「巨額の負債」というが、それは労働者に支払う累計1.2億元の補償金のことである。それは長期にわたって労働者の利益を侵害してきた明々白々の証拠に他ならない!

労働NGO「打工族」が支援した案件はどれも、資本の側が違法行為を行っており、それに対して労働者が合法的な利益を求めたものである。たとえば恒宝珠宝工場では、労働者がストライキで社会保険料の追納を要求したものである。広州学園都市の清掃労働者の争議では契約変更にともなう補償を求めた。広州中医薬大学付属第一医院の看護師と警備員は各種保険料と積立金の追納を求めたものである。

新華社は「いずれの場合もストライキで大騒ぎしたあとは、鎮静化させるために政府部門が介入せざるを得ず、労使交渉の調整をおこなった」と報じている。新華社の記者でさえも政府部門が介入せざるを得なかったと報じているが、それはまさに政府部門が当初は労働者の合法的な権利を守るために介入しようとせず、「ストライキで大騒ぎしたあと」でやっと「介入せざるを得なかった」ということを明らかにしている。

(つづく) 広東の労働NGO弾圧に関して中央テレビがトンデモ報道 (後半)