台湾:労基法改悪に反対する学者の声明(2018/1/4)

ひさびさに台湾の話。

新年のNHKニュースを聞いてたら、インタビューに答えて「今年は働き方改革と賃上げの年にする」というナショナルセンター会長の声。思わず「I am ABE」かよ!と叫んでしまいました。

で、昨年末から台湾で続いている労基法改悪反対のうごきですが、いよいよ立法院での本格的な審議がおこなわれるのをまえに、大学人も労基法改悪反対の署名を呼びかけ始めました。労基法改悪のポイントが分かりやすかったので訳してみました。もちろん大学人だけでなく、労働組合や市民団体なども、与党・民進党のかなりでたらめで強引な主張に対して、全国で動きを強めており、本格審議の始まる1月8日からは徹夜の立法院包囲行動を組織するようです。

ABEの「働き方改革」も「人づくり革命」も「世界一企業が活動しやすい国」づくりのためですが、これは何も一国に限られるわけではなく、いわゆる企業の競争力強化とは、他国の企業との競争だけではなく、資本と労働者の競争における競争力強化なわけで。労働者は国内外の労働者と競争するのではなく、資本と競争してほしい(そもそも独裁政権と数億の労働者軍が隣にあったら、どんだけ競争力つけてもかなわないでしょ)。そのために競争力=団結もまた雇用形態や企業、そして国境をこえてこそ競争力強化となります。あらゆる戦争に反対ですが、資本との必死の競争=階級戦争くらいはいいかな、とも思います。

前フリが長くなりました。今年も労働者にとって良い年に、資本にとって悪い年になりますように。あばら家に平和を、宮殿に戦争を!

以下、労基法改悪に反対する学者の声明と署名サイトです。国籍は限定されていないと思うので、大学関係者の方は署名してみては?台湾での労働法規の規制緩和は日本資本にとっても念願でしょうし。ちょっとKYかな。

署名の内容は、姓名、学校名、所属および役職、連絡アドレス、意見、となっています。

会員 IY

署名サイト


台湾:労基法改悪に反対する学者の声明
2018年1月4日

2017年12月4日夜、全国の労働者の権利にかかわる「労基法」の修正案は何度かの「討論中止」の評決および立法院[国会]外での大衆の抗議の声のなか、立法院の厚生労働および経済の両委員会の合同委員会での「審査」を通過した。政権党である民進党は一か月の与野党協議という冷却期間ののちに開かれる臨時国会において、法案審査の正式な手続きを終えて改正法案を成立させよとしている。われわれは、政権党がこのように慌ただしく、かつ完全に資本の側にたった法改正を行うことは、台湾労働者の悪夢を更に積み重ねることになるだけでなく、「労働基準法」の立法精神を損なうことになると考える。われわれの共通した主張は、政権党はこの法改正をすぐに停止すること!これである。以下にわれわれの主張を掲載する。

今回の「労基法」修正案で、政権党が掲げる最も核心的な理由は「経営に弾力性をもたせることにより、競争力を高める」ということである。具体的には、法案の中で次のように述べられている。(1)休日出勤の労働時間が「4時間以内は4時間とみなす」「5時間以上8時間以内は8時間とみなす」割増賃金(※)を計算する現行法を「実働時間」に改正する(2)毎月の残業時間の上限を46時間から54時間に延長し、三か月間の残業時間の合計が138時間を超えないようにする(3)インターバルの間隔を11時間から8時間にする(4)現行の「7日間に1日の休日」にくわえ「14日間で2日間の休暇」の適用も可能とし、「連続12日間の労働も可能」とする。
※訳注:休日出勤の割増率は最初の2時間は1.33倍、それ以降は1.66倍。

われわれはこれらの修正案に反対する。

第一に、休日出勤の実数算定に反対する。2016年の労基法改正で、休日出勤の計算方法を「4時間以内は4時間とみなす」「5時間以上8時間以内は8時間とみなす」とした。それを「実数算定」に変更するとなれば、週休二日を目的とした法律改正の趣旨から完全に逸脱することになり、休日と一般的に残業が可能な休憩時間との区別がなくなってしまい、労働時間の削減や過労状況を改善する効果がなくなってしまうからである。われわれは、この修正案によって台湾の労働時間がふたたび延長され、過労状況が急激に悪化すると完全に予言することができる。

第二に、時間外労働の制限を緩和することに反対する。台湾労働者の過労状況の根源には、総労働時間の長時間化のほかに、短期間における過密な時間外労働の存在を指摘することができる。今回の法改正で毎月の残業時間の上限を54時間(三カ月以内での調整も可能)に緩和することになれば、時間外労働の過密化と過労状況は悪化することが予測される。

第三に、交代制のインターバルを8時間に短縮することに反対する。実務的にいって、三交代制のインターバルを8時間に短縮すると、不安定な勤務配置(いわゆる「まだら勤務」)を法律的に後押しすることになるだけであり、労働者の健康に深刻な影響を与えることになる。多くの労働安全衛生の科学的根拠がすでに明らかにしているように、交代制のインターバルの間隔を短縮することは労働者にとって命の危険をもたらすことになることは言うまでもない。

第四に、7日間に1日の休暇の規制を緩和することに反対する。「7日間に1日の休暇」は労基法が1984年に制定されて以来の規定であり、その目的な労働者にもっとも基本的な健康を保障するためである。今回の法改正がこの規制の緩和を許容すれば、労働者の休息する基本権をはく奪することとなり、「定期休暇」における「定期、固定」という概念にも違反し、不安定な休暇に陥ることになる。前述の第二、第三の論点と同じく、短期間に集中された労働および適度な休暇の欠如は、労働者と社会全体にとって必ずや深刻な損害をもたらすことになる。

これらの理由から、今回の修正案は、労働時間の長時間化をもたらすだけでなく、労働者を取り巻く短期間の過密な労働と息をつく暇もないほどの過労現象を急激に悪化させるだろう。さらには、労基法の改悪によって政権党が言うような「競争力を高める」ことが本当にできるのかどうかも、実際には証明することもできない。

確かに、企業は市場における競争において弾力性を必要としていることは、全世界で共通である。しかるに、いわゆる企業経営における弾力性とは、まったく規制されることのない労働力の使用と直接的に同じであってはならない。それは社会全体が負の影響を被るからである。過労状況が直接に生み出す労災被害やそれがもたらす個々の家庭状況の崩壊といった問題をひとまず置いたとしても、台湾の少子化現象がもたらす深刻な社会的危機(年金、教育システムの断絶、社会全体の生産力の衰退)の根源がまさにこの過労な労働環境にあることを指摘せざるをえない。そしてこの危機はすでに台湾社会に衝撃を与えており、もし労基法が今後も改悪されることになれば、労働人口は減少し続け、台湾の競争力引き上げどころの話ではなくなる。ましてや社会経済学者が指摘するように、台湾の競争力の強化を、技術や管理能力の引き上げという手法ではなく、労働者からの搾取に依拠し続けるのであれば、それは完全に間違った処方箋でしかない。

つまり、仮に企業の運営にとって弾力性が必要であるとして、そのために労働力に依拠することは最低限度にすべきであり、労基法はまさにそれを規範化した最低限度[根本]の法律ともいえるのである。それは個々の労働者の健康と安全を保護するだけでなく、社会的セーフティネットを維持する最低限度[根本]の法的規範である。われわれは、政権党が手前勝手な政策によって、台湾社会全体に悲惨な代償を支払わせることになるのではないかと危惧する。

政権党が、現行の労基法にはまったく弾力性がなく、法的根拠もないと主張している。しかし現在の労基法にはすでに二週間、四週間、八週間の変形労働時間や裁量制という制度設計があり、それは個別の業種に適用されていることから、まったく弾力性がないということにはならない。もし[それらが適用されていない]個別の業界において弾力性が必要というのであれば、非科学的な想像に基づいたでたらめな法改正を強行するのではなく、調査および評価報告書を提出し、業界や企業の需要を分析し、労基法の目的である社会安全の保護と折り合いをつける責任が政権党にはあるはずだ。だが現在の政権党は、業界別の調査データや説得力のある論拠を提出することもないままに、根拠のない主張や大雑把な世論調査を根拠にして法案修正を強行しようとしている。この法案修正の唯一の根拠とされる世論調査においても、労働部[省]と民進党がそれぞれ実施したものの結果が全く異なるのはいったいどういうことなのか。法案修正に大きな影響を及ぼすこのような事態にもかかわらず、政権党はまるでお芝居のように法案を強行しようとしている。全くでたらめの極みである。

最後に、この労基法の修正案は、全国労働者の労働と休息の基準的規範であり、国民の労働、家庭、社会生活、そして経済発展にいたるまでの広範かつ深遠に影響すること、そしてそれはまちがいなく「過労台湾」をもたらすことになるだろうと警告する。以上の理由から、われわれは労基法修正案に厳正に反対し、政権党が即時この法改正の手続きを中止することを求める。

発起人

王金壽(成大政治系教授)
王舒芸(中正社福系副教授)
呉明孝(義守大學公共政策與管理學系助理教授)
呉豪人(輔大法律系副教授)
杜文苓(政大公行系教授)
周平(南華應用社會系副教授)
林佳和(政大法律系副教授)
林敏聰(台大物理系特聘教授)
邱文聰(中研院法律研究所副研究員)
邱花妹(中山社會系助理教授)
邱毓斌(屏大社發系助理教授)
姜貞吟(中央大學客家社會人文研究所副教授)
塗予尹(淡江公行系助理教授)
莊雅仲(交大人文社會學系教授)
陳宜倩(世新性別所教授)
陳尚志(中正政治系副教授)
陳秉暉(職業醫學科住院醫師)
陳保中(台大職業醫學與工業衛生研究所特聘教授)
陳政亮(世新社發所副教授)
陳昭如(台大法律系教授)
黄厚銘(政大社會系副教授)
黄國超(靜宜台灣文學系副教授)
黄函楡(台師大英語系教授)
萬毓澤(中山社會系副教授)
管中祥(中正傳播系副教授)
劉梅君(政大勞工所教授)
劉靜怡(台大國發所教授)
鄭斐文(東海社會系副教授)
盧孳艶(陽明大學社區護理研究所教授)
藍佩嘉(台大社會系教授)
顏亮一(輔大景觀設計系副教授)
顏厥安(台大法律系教授)
蘇彦圖(中研院法律研究所副研究員)