日中労働情報フォーラムが招待した張浩川(復旦大学日本研究センター副教授)先生は10月22日、東京で同会員と懇談された。24日に大阪での講演「中国経済の現状と雇用の動向」の要旨(以下)を話された後参加者からの質問に熱心に答えられた。
まず、最近の日中間の険しい関係は、成長した中国経済にとって日本の比重が低下し、逆に日本にとって中国経済の比重が増加した結果、中国の日本への配慮が減少したためだと指摘。また、両国のマスコミが互いに相手国の悪い現実のみ報道し、全体的な現実を報道しない結果、国民の間に「情報の非対照的現象」が起きている。事実の報道こそが国民が現実を正しく把握するための基礎的条件だが、マスコミは問題のみを指摘し、国民はその解決策を見いだせないのが現状だと語る。
それを具体的に日系企業の労使関係を通じて明らかにする。中国で働く日本企業の労務担当者との長い交流を通じて分かったことは、日本の経営者は中国の問題点を指摘するが、彼らは中国の現実を把握していない。戦後の日本的経営の3本の柱は、終身雇用、年功序列、企業内組合であったが、それらは中国をはじめ世界では通用しない。中国で終身雇用が保障されているのは公務員だけで、そのため若者の就職で一番の人気がある。そして、年功序列は日本のような下請企業の構造があって初めて機能するが、それがないところでは実力(能力)主義が支配する。また、中国の労働組合は政府の支配下にあって自立性はない。そうした中国の現状で日本的経営が成り立つはずがない。現地で働く日本企業の担当者の悩みがそこにある。
企業はグローバル人材戦略が求められるが、日本では昔通産省(政府)が企業の海外進出を支援したが、今の通産省にそんな力はない。したがって、企業は自主的なグローバル戦略が求められているが、日本企業にその戦略があるのだろうか?企業のグローバル戦略とは政治、天災、賃金や労働条件などのリスク管理であるが、日本企業はそれらを持っているだろうか。
以上の提起の後質疑が行われ、さらに懇親会まで延々と参加者の遠慮のない質問に中国の現実について自分の見解を率直に話した。張先生は1990年代から日本に留学して法廷通訳や皿洗いなどさまざまな経験を積み、今も多くの友人を持ち、同時に中国の政治・経済界にも豊かな人脈を持っている。また、張先生の話は具体的かつ歯に衣を着せぬ率直、大胆な発言で現実を鋭くメスを入れた。
(高幣真公 記)