「高市首相の台湾有事は存立危機事態発言の撤回を求める緊急記者会見」が開かれる

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 12月8日、参院議員会館で村山首相談話の会が主催し、「高市首相の台湾有事は存立危機事態発言の撤回を求める緊急記者会見」が行なわれました。11月7日、高市首相は衆院予算員会で、「台湾有事が起こった場合、戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁していますが、これに機に日中関係は急速に悪化しており、経済・文化・民間交流など、各方面に影響が出ています。

   【緊急記者会見】
台湾有事を口実に日本を中国への先制攻撃・侵略戦争に駆り立てるな!
―台湾問題は中国の内政問題だ!―
村山首相談話を継承し発展させる会

 冒頭、村山首相談話の会の藤田高景理事長が「緊急声明」を読み上げ、「1972年9月、田中角栄首相の訪中によって中国との国交正常化が実現し、周恩来首相は、『1894年から半世紀にわたって、日本軍国主義者の中国人民は極めてひどい災難をこうむり、日本人民も大きな損害を受けた』とスピーチした」と述べ、「日中共同声明の前文には、『日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する』とあり、日本政府が、こうした歴史認識を披露した初の国際文書だった」と語りました。その上で、「日中共同声明の第3項には、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを、日本国政府は、この立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」となっていることを強調。さらに、「日中共同声明に示された歴史認識は維持されており、95年8月の『村山談話』でも、痛切な反省の意とお詫びの気持ちが表明されている」と話し、「高市首相の存立危機事態発言は、極めて危険であり、台湾問題を中国の内政問題と認め、即時に撤回すべきだ」と訴えました。

 続いて、参加者から発言があり、東郷和彦元外務省条約局長は、「10月31日の日中首脳会談で高市首相は習近平国家主席に対し、人権と少数民族問題に対する懸念を伝えたことを記者団に話した。翌日、習主席はデットラインとして日中共同声明と村山談話を遵守するよう高市首相に釘を刺した。このシグナルを首相の周囲が注意していれば、11月7日の発言は無かっただろう」と指摘し、「高市首相は『今後は特定のケースに対しては答えない』と言っているが、撤回という言葉が無い限り、中国政府は納得しない。ただ、12月7日のレーダー照射事件のような問題が起きないよう、粘り強く対話の努力を続けるべきだ」と発言しています。また、羽場久美子青山学院大学名誉教授は、「高市首相の発言は極めて危険であり、中国と台湾の紛争に日本が乗り出せば憲法9条違反であり、国際法に違反している。そして、日本のこれまでの信頼を打ち砕くような発言だ」と批判し、「今までの歴代自民党内閣でも言わない発言であり、歴史を見ていないとしか言えない」と述べました。また、伊藤彰信日中労働者交流協会会長は、「初代会長である市川誠元総評議長が表明した『日中不再戦の精神』を継承し、現在は『和解から友好へ』をスローガンに日中平和友好活動をしている。民間交流による相互理解を通じて和解を促進し、民を以て官を促すということだ」と話し、「武力で平和は創れない。自国の首相が『戦争をするぞ』と言っているのだから、主権者たる日本国民は、『戦争をするな』、『高市首相は発言を撤回しろ』との声を上げるべきだと思う」と訴えました。

 記者会見には、他に田中宏一橋大学名誉教授、政治経済学者の植草一秀氏、岡本厚『世界』元編集長、竹信三恵子和光大学名誉教授、杉浦ひとみ弁護士、足立昌勝関東学院大学名誉教授、前田朗東京造形大学名誉教授、川村範行名古屋外国語大学名誉教授、乗松聡子ピースフィソロフィーセンター代表も参加し、それぞれ意見を述べています。


伊藤彰信会長も発言

   【伊藤彰信会長発言】

2025年12月8日、記者会見メモ

伊藤彰信(日中労働者交流協会会長)

1 日中労働者交流協会(略称:日中労交)は、初代会長である市川誠(元総評議長)が侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館の開館式に出席するにあたって表明した「日中不再戦の誓い」の精神を継承し、現在は「和解から友好へ」をスローガンに日中平和友好活動をしています。日中共同声明が国家間の政治的・外交的和解とするならば、民間交流による相互理解を通して和解を促進し、民を以て官を促したいと思っています。

                     誓 い
 われわれは、1931年および1937年を契機とする日本軍国主義の中国侵略戦争を労働者人民の闘争によって阻止し得なかったことを深く反省し、南京大虐殺の犠牲者に対して心から謝罪するとともに、哀悼の意を表し、ご冥福を祈ります。
 われわれは、日中不再戦、反覇権の決意を堅持し、子々孫々、世々代々にわたる両国労働者階級の友好発展を強化し、アジアと世界の平和を確立するため、団結して奮闘することをあらたに誓います。
     公元1985年8月15日
     抗日戦争及びファッショ戦争勝利40周年記念日

2 今回の高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態である」という発言は、中華人民共和国の領土の不可分の一部である台湾において日本が軍事行動を行うという宣戦布告の予告にほかなりません。「相互不可侵」、「内政に対する相互不干渉」などの平和五原則の基礎の上に「両国間の恒久的な平和友好関係を発展させ」、「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えない」とした日中平和友好条約第1条に反するものであり、日中共同声明、二度と戦争をしないと誓った日本国憲法に反するものであり、断じて許すことは出来ません。発言の撤回を強く求めます。しかし、高市首相は「従来からの政府見解を変えるものではない」と述べており、発言を撤回するだけでは収まらない大きな問題があると思います。

3 私が2015年12月に訪中したとき「安保法制の成立を阻止することができませんでしたが、日本国憲法第9条が改正されないよう頑張ります」と述べたら、「日本は日本国憲法第9条を改正しなくても戦争ができる国になったのではないですか」と言われました。

4 今回、中国政府は国連憲章第53条の「敵国条項」を指摘しています。日本国憲法第9条第1項は、国連憲章第2条第4項の「武力による威嚇又は武力の行使を(中略)慎まなければならない」を引用したものであり、「慎む」よりも踏み込んで「永久にこれを放棄」したわけです。第9条第2項は、国連憲章第53条を態度で示すために、戦力の不保持、国の交戦権の否定を謳ったわけです。日本は、日本軍国主義の中国侵略戦争の反省を、国連憲章よりもさらに平和主義に踏み込んだ日本国憲法を制定することによって、平和国家への道を歩んできました。

5 「抑止力による平和」という考え方は誤りです。「抑止力」とは「武力による威嚇」にほかならず、留まることなくエスカレートするものです。武力で平和は創れません。日本国憲法にも国連憲章にも反する考え方です。

6 私は、「台湾有事」での日本の軍事介入のシナリオは、一般的にいわれている「米中戦争巻き込まれ論」ではなく、「自衛隊仕掛け論」ではないかと考えています。「中国が攻めてきた」と言って、武力攻撃事態による反撃を行うのです。1931年の柳条湖事件、1937年の盧溝橋事件も日本軍国主義が仕掛けたものでした。

7 日本は戦争への道を歩んでいます。以前「政冷経熱」という言葉がありましたが、今は「経済安全保障」が語られる時代です。軍官民一体の体制がつくられようとしています。「中国の脅威」を煽ることによって、「戦う決意」を持たせようとしています。マスコミ、教育がその先陣を担っているわけです。九州に長射程ミサイルの先行配備、南西諸島のミサイル基地化、民間港湾・空港の軍事利用、防衛産業強化がすすめられています。防衛関連産業で働く労働者の賃金は大幅に引上げられました。今、日本の労働組合は「産業報国会」化しています。単に意識のレベルだけではなく、社会経済を含めた総力戦を戦う体制が出来上がろうとしています。まさに「戦争前夜」です。自国の首相が「戦争をするぞ」と言っているわけですから、主権者たる日本国民は、「戦争をするな」、「高市首相発言を撤回しろ」の声をあげるべきだと思います。

    以上

*このメモは、日中労働者交流協会の組織的な声明ではなく、私の個人的な意見です。


12/8 記者会見次第(PDF)

12/8 伊藤彰信会長の記者会見メモ(PDF)