伊藤彰信(日中労働者交流協会会長)
中国の敦煌で、5月30日、31日の両日に開かれた「第4回文明交流・相互参照対話会」に、日中労働者交流協会から私と有田純也(日中労交事務局次長、新潟県平和運動センター事務局長)が参加しました。5月28日に出発し、「対話会」に参加した後、新疆ウイグル自治区のトルファン、カシュガル、ウルムチを回り、6月4日に帰国しました。
今回の訪中は「対話会」を主催した中国国際交流協会の招待によるもので、日本からの参加者は14名でした。日中経済協会専務理事の堂ノ上武夫さんを団長に、日中協会の服部健治副会長、日中友好協会の大西広副会長、日本青年会議所の鎌田長明さんなどそうそうたるメンバーです。日本民間組織友好視察団と名乗って行動しました。5月29日には劉洪才中国国際交流協会副会長の歓迎昼食会がありました。
「対話会」には、世界60余カ国から約200名、中国各地から約100名が参加しました。「対話会」の開会式では、韓正国家副主席が基調演説を行い「文明間の交流と相互学習は、人類文明進歩と世界の平和的発展を推進する重要な原動力である」と語り、世界文明の多様性の尊重、人類共通の価値の発揚、文明の継承と革新の重視、国際的な人的、文化的交流協力の強化を呼びかけました。8つのパラレルフォーラム(分科会)が設けられましたが、視察団は、日本語同時通訳がある「全人類共通の価値を実践するための生態学的行動」分科会に参加しました。「生態学的行動」とはどのようなものか分からなかったのですが、英文をみると“Ecological Actions”と書かれており、SDGs実現のために環境に配慮した土壌改良、水利など気候風土に適用した経済開発などの紹介がありました。
新疆地域の旅では、シルクロードの遺跡と少数民族と共同して経済開発している施設を見学しました。私は、敦煌は初めてでしたが、トルファン、カシュガル、ウルムチは20年前に妻と観光旅行をしたことがあります。当時はイスラム教のモスクより高い建物はないと言われる状況でしたが、いまでは高層ビルも林立し、新疆地域の発展ぶりには目を見張るものでした。その経済発展は、地域性を活かした産業政策であり、環境に配慮した最先端技術が投入されていることに感心しました。私が興味を持った施設などについて紹介します。
一つ目は、敦煌の太陽熱発電です。太陽光発電ではなく、太陽光を鏡に反射させて塔の上に集中させ、硝酸塩を熱し、熱交換して蒸気でタービンを回して発電します。有害廃棄物はなく、理論的には半永久に稼働します。
二つ目は、カシュガルの南達新農業株式会社です。パミール高原の万年氷河の融水を引いて水を確保し、牧場をつくり、乳製品の加工工場をつくり、ネットの実演販売も行って全国に販売網を展開しています。地元の農牧民も株を所有し、従業員の8割は少数民族の出身です。所得は大幅に増え、脱貧困に寄与したとのことです。
三つ目は、ウルムチの華源グループの新疆銀朶蘭薬業です。漢方薬の会社ですが、薬草から薬を煎じる技術を活かして、水の再生処理、都市暖房の分野に進出し、グリーンな団地建設などを行っています。
四つ目は、自由貿易区です。私は沿岸地域の自由貿易区を30年以上前からいくつか見てきましたが、内陸にある自由貿易区は初めてでした。カシュガル自由貿易区はカシュガル空港に隣接していました。飛行機で1時間半圏内に隣接8カ国の首都へアクセス可能とのことでした。中欧班列についての説明はありませんでしたが、敦煌駅は敦煌空港と隣接し、高鉄(新幹線)や貨物列車が乗り入れていました。
五つ目は、観光産業についてです。20年前に訪れた観光地は碑が建っているだけでしたが、いまでは駐車場が完備し、売店、レストランが整備されていました。感心するのは、歴史を説明する資料館が必ずあることです。カシュガルの古城は水害にあった後、下水道をはじめインフラ整備が行われ、古い街をめぐる観光地区に生まれ変わりました。伝統的商品を販売する店が並んでいますが、商品の製造過程を見ることができるのも魅力です。
ウルムチでは、「反テロリズム・極端主義との闘いの展示館」も見学しました。私は、少数民族問題は言語、宗教、教育(文化)、自治の保障を前提に国家との関係をどのようにつくるのかが課題だと思っています。その意味では、中国政府の民族問題に取り組む姿勢と努力を知ることができました。
私は、2022年8月に中国国際交流協会から「グローバル発展イニシアチブの共同実践に関する国際民間社会交流大会」にお誘いを受け、ウェブ傍聴させていただきました。そのときから、2021年9月の習近平主席の国連演説が気になっていました。2030アジェンダ(SDGs)の実行を加速するグローバル発展イニシアチブの共同実施についてです。今回、「対話会」と新疆の視察に参加させていただいて、共同実施の実践を学ぶことができました。日本では、SDGsは環境保護のための技術革新と捉えられがちですが、その基本は世界から貧困と差別をなくし、誰もが取り残されることなく発展を享受し、人と自然との共生社会をつくることです。
習近平主席の国連演説には、グローバルな安全保障、相互尊重と協力によるウィンウィンの国際関係の理念の実践、多国間主義によるグローバルガバナンスを整えるなど、安全、発展、人権の三大分野の取り組みをバランスよく進め、人類運命共同体を構築する課題もありますが、日中労働者交流協会は、民間組織として今回のような交流を通じて、さらに日中友好を深めていきたいと考えています。