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書評『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』
なぜ日本企業でストが多発するのか(中国人にとって耐えられない管理体制)を解剖

中国絶望工場の若者たち 『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』は、日本ではあまり紹介されてこなかったストライキに立ち上がる第二世代出稼ぎ労働者を取材した本です。著者の福島香織さんは、元産経新聞の中国特派員。特派員のころからけっこう面白い記事を書いていたのですが、辞めてからは稼がないといけないのか、日本人受けするものが目立ってあんまり評価はしていませんでした。

 日本に出稼ぎにいったことのある知り合いの中国人の家族へのインタビュー。けっこう読みやすく、また中国人へのまなざしもいいと思いました。取材に出てくる中国人の研修先はそんなに待遇の悪くないところだったようですが、日本の研修制度の問題点などもちゃんと触れていて、表紙から想像する「なんとなく中国って危ない」というようなイメージとは違い、取材対象の中国人労働者を一人の人間として扱っています。女性の視点もある。

 おそらく日本人が書いたものとしてははじめて全編が出稼ぎ労働者で構成されているのではないか、と思います。取材期間が短かったことやつっこみ不足、あるいはすでに知っていることが大半など、いくつかの制限はありますが、中国人に接する彼女の対等な姿勢に好感が持てます。

 不安定な中国人出稼ぎ労働者の境遇を変えるチャンスは、家族主義的な日本的経営にあるかもしれない、という主張にはややげんなりしますが、なぜ日本企業でストが多発するのか(中国人にとって耐えられないほどの管理体制)など、日本企業の立場ではなく、中国人の立場に立って理解しようとしていました。

 表紙に使われている写真(幸福な社会を返せ、というスローガンを持っている労働者)は、あきらかに台湾の労働組合活動家の写真なんですが・・・。記者出身のせいか、読みやすい文体です。

 Y・I

 『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』公式サイト

 *参照 広州日中労働研究交流会で推薦する中国労働者の現状・運動を研究する参考文献