JCLIF レポート

中国:労働契約法の改正すすむ(派遣労働について) (2012/8/10)

2008年1月1日から施行されていた中国労働契約法ですが、派遣労働の条項を改正するために7月6日から8月5日までパブリックコメントを募集していました。8月2日の報道では47万件ものパブリックコメントが寄せられたとのことです。

中国労働契約法の改正法案のパブリックコメント募集(中国語)
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/lfgz/flca/2012-07/06/content_1729107.htm

以下、関連報道を抄訳してみました。小見出しは適当につけました。記事には、派遣労働は有用の意見もありましたが、日本の状況とほとんどおなじなので省略しました。資本の搾取に国境はないのですね~。

以下、長文・乱文でごめんなさい。

======

中国:労働契約法の改正すすむ

『瞭望東方週刊』2012年08月06日

原文 http://finance.eastmoney.com/news/1365,20120806243351589.html

◎ 派遣労働を焦点に

2012年6月26日から30日まで、第11期全国人民代表大会常務委員会27回会議で、「労働契約法修正案(草案)」が初めて審議され、7月6日に草案が公表され、パブリックコメントの受付が始まった。「労働契約法」実施から4年目で初めての改正である。改正は4条項が対象で、いずれも派遣労働に関するものである。

「労働契約法」第66条では「労務派遣は、一般的に臨時的、補助的あるいは代替的部署において実施する」とされている。しかし実際には国有企業、政府機関などをふくむ多くの職場で利用されており、主たる業務の部署においても長期間にわたって派遣労働者を使用している。

◎「リストラされても補償もない」

張晨さんと契約した智聯リクルート社は、政府の所管部門が発行した人材サービス許可証と労務派遣許可証を持つ人材サービス機構だ。張さんは「私の給料は正社員よりも2000元も低い。社会保険には入っているが、残業代は一ヶ月後にしかもらえない」と言う。「部署で最も重要な業務とはいえないが、仕事量は多い。夕方4時から夜12時まで、コンピューターの前に座りっぱなしでニュース編集をするんです。」

契約の際に、智聯リクルート社も派遣先企業も、正社員と待遇に違いはないと言っていた。「そのときは派遣労働が何を意味するのかわかりませんでした」と張さんは言う。彼の部署には3人の派遣労働者がいる。「もしそのときに待遇に違いがあると知っていたとしても、契約をしていたかもしれません。ですが、もうすぐ1年になりますが、努力が認められないので不満が残ります」。「他にも心配ごとはあります。もし会社がリストラをはじめたら、まず我々が最初の対象になります。補償もない。賃上げにも時間がかかる」。

◎雇用コストの不当な引き下げが目的

現在、派遣労働は各業界に蔓延しており、人数は年を追うごとに増加している。上海市総工会が2011年1月に発表した調査報告によると、2003年には企業で雇用されている労働者の28.3%を占めていた派遣労働者は、2006年には33.8%に上昇。2007年には38.3%、2008年初めには39.7%にまで達し、ここ数年の間でも上昇を続けている。

「現在、中国国内の派遣労働は、労働市場の費用を引き下げるのでもなく、雇用のミスマッチを解消するのでもなく、職業訓練や労働技能を高めるのでもありません。それは不当に雇用コストを引き下げるためであり、雇用主が義務を回避するためにあるといえます。導入の最初から不健全なモデルでした。」と中国人民大学労働関係研究所の陳歩雷研究員は語る。

「国内での派遣労働の発展過程は、改革開放以前にも似たような労務派遣はありました。そのときは臨時工とよばれていました。かれらの賃金は正社員よりも高かったです。なぜなら不安定な雇用だったからです。」と国家人的資源社会保障部(日本の厚生労働省にあたる:訳注)のとある研究所の研究員はそう語る。その後、国有企業改革(民営化:訳注)のなかで「(臨時工という)このような雇用形態で“鉄のお茶碗”(食いはぐれ=解雇のない雇用:訳注)から市場を通じた雇用への転換を目指したが、改革半ばで止まっている。一部は派遣労働に置き換えられたが、一部はそのままで懸案になっている」

◎激増する派遣会社と労働争議

派遣会社の設立要件は、2008年1月1日施行の「労働契約法」第57条によると「労務派遣機関は会社法の関連規定に基づき設立し登録資本は50万元を下回ってはならない。」とされている。つまり会社登記をするさいに資本金50万元以外に条件はない、ということである。2008年を前後して派遣会社は激増した。

ルールなき派遣機関の激増で争議件数は増加している。北京市第二地方裁判所労働争議事務室の劉海東副主任はこう語る。「現実には、派遣機関の主体的資質が法律の規定に合致していない。偽装派遣や関連会社を通じての派遣受け入れなど、法律責任を回避することなどで発生する争議件数が大幅に増加しています。」

今回の改正案(草案)では、派遣期間設立に三つの条件を課している。100万元以上の登録資本、合法的な派遣労働者管理制度、労働行政部門の許認可である。

〔派遣会社の経営者:設立要件の規制強化は市場にとっても有効だと主張。くだらないので省略:訳注〕

◎「労組は矛盾の渦中に飛び込め」

改正案(草案)では同一労働同一賃金についても踏み込んだ規定がなされている。「労働契約法」第63条は「派遣労働者は派遣先企業の労働者との同一労働同一賃金の権利を有する」と規定されているが、その後ろに「労働派遣機関は、派遣労働者との労働契約および派遣先企業との派遣契約において記載あるいは約束された派遣労働者に支払われる労働報酬は、前規定に合致する」と追加される。この「前規定」とは「派遣労働者は派遣先企業の労働者との同一労働同一賃金の権利を有する」を指す。業界関係者はこの規定を「婉曲な言い回し」と評する。

中国人民大学の労働法社会保障法研究所の林嘉所長は「同一労働同一賃金を法律だけで解決することは難しい。団体交渉などを通じて解決するケースも考慮すべき。派遣企業での労働組合の地位についても強化すべき」と考える。

「もし労働組合が役割を発揮すれば、派遣元と派遣先のあいだで責任を押し付けあうことはできなくなるだろう。労働組合は矛盾の渦中に飛び込まなければならない。」中国人民大学労働関係研究所の陳歩雷研究員は語る。

〔紛争の際には、仲裁機関での裁定に不服の場合、裁判に訴えることができるという現行規定があるが、時間がかかり、仲裁機関より判決で労働側の主張が認められるケースが多いので、今回の法改正では紛争処理の短期化も目指す、という解説。くだらないので省略〕

◎「臨時的、補助的、代替的」の適用を厳格に

「臨時的、補助的、代替的」という問題について、草案では第66条で「労務派遣は、臨時的、補助的あるいは代替的部署のみにおいて実施する」と改定する。現行規定は「労務派遣は、一般的に臨時的、補助的あるいは代替的部署において実施する」というもので「一般的に」を「のみ」に置き換える。また草案では「臨時的とは派遣先での業務存続期間が六ヶ月を超えないもの、補助的とは派遣先での業務が主たる営業業務にサービスを提供するもの、代替的とは派遣先の職員がオフザジョブ・トレーニングや休暇などで一定期間その業務につけない場合に、派遣労働で代替することが可能であることを指す」としている。

これについて、中国人民大学法学院の黎建飛教授は、「以前、ある銀行の頭取から質問されたことがあります。カウンター業務は補助的な業務になるのかどうか、と。私たちが銀行へ行って接触するのはカウンターの従業員でしょう。もしカウンターの業務が補助的なら、頭取をはじめすべての業務が補助的となってしまいます。また代替的という概念ですが、立法目的の主要な対象は3ヶ月の産休に対するものでした。しかし実際の運用では、すべての業務が代替可能となっています。これらの用語解釈の違いは、我々の予想を超えるものです。」

◎派遣労働を悪用する国有企業・政府機関

現行の労働契約法の起草にあたった中国人民大学労働関係研究所の常凯所長は、現在の定義に何ら問題はないと断言する。

「半年以下は臨時的、補助的かどうかは主たる業務かどうか、それらは完全に区分けできる。用語が問題なのではなく各方面の力関係が問題だ。」

「銀行のカウンター業務、電話のコールサービス、ガソリンスタンドのサービス人員など、どれもみな必要不可欠な業務であり、それがなければその業界は成り立たない。これらの業務は臨時的であるはずがない。多くの企業や行政機関が法律の抜け穴を悪用しているだけでなく、行政力や経済力を通じて立法過程に影響を及ぼそうとしていることが、最大の問題ではないだろうか。」

「2008年以降、派遣労働についての規定は大まかで原則過ぎた。実施後に臨時的、補助的、代替的に代表される問題について、言葉の上だけの理解のみで実際には厳密に適用されてこなかった。とりわけ一部の国有企業や公営事業、政府機関などで大量の派遣労働が使用されており、悪いケースの典型となっている。これらの部署は派遣労働に関する法改正においても反対の態度を示している。」

「政府機関はそもそも派遣会社を設置できる権限などないはずだ。しかし多くの派遣会社が政府部門と不明瞭な関係を持っている。大型国有企業も派遣会社を設立して、正社員の身分を派遣労働者にしている。これは決して稀なケースではない。労働契約法の改正の困難な大きい。」

◎結局は階級の力関係

中国法政大学の民商経済法学院の金英傑教授は、遠隔地派遣の問題を提起した。「目的は社会保険コストの削減」と指摘する。「たとえば張三さんという安徽省籍の農民工が、山東省の派遣会社から北京の建設現場に派遣されたとする。派遣会社は地元の山東省に社会保険料を納付。もし労災が発生した場合、労災認定や障害鑑定などでは、加入地の労災保険で行われる。もし会社とのあいだで争議が発生した場合、張三ははるばる山東省まできて裁判に臨まなければならない。長距離の移動コストを考えたら争議を断念せざるを得ない」

〔もろもろ省略〕

中国人民大学労働関係研究所の常凯所長は「草案」が全人代で採択された後も、規則などで細かく規制しなければならないと考えている。「多くの問題について、法理上議論できることはそう多くない。結局は、誰の力が強いのかということだ。これは立法部門の力関係と価値観に関係することだ。」