先日、香港のNGO・SACOM(Students and Scholars Against Corporate Misbehaviour、多国籍企業の労働実態を監視する学者と学生の会)が、上海ディズニーランドの開園に合わせて、中国のディズニー・サプライヤーで多発する労災を糾弾する抗議行動を行ったことを紹介させていただきました。
そのなかで言及されている、上海ディズニーランド開園に先立って、このほど発表された、在中国ディズニーサプライヤーの労働条件調査報告書についてのプレス・リリースを翻訳しましたので、ご紹介します。
報告書は題して『労働者にはおとぎの国ではない』。上海では、アジア最大のディズニーランドの開園に先立つ5月20日、世界最大、売場面積5,000平米のディズニーストアが開店、その内部をテレビで見ましたが、ありとあらゆる(お菓子はないそうですが)ディズニーグッズで5,000平米の売り場はいっぱい。この影にいったいどれだけの労災被害者がいるか、どれだけの失われた指があるかと思うと、気が遠くなりそうでした。
投稿:わだともこ(レイバーネット・国際部)
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[報告] 労働者にはおとぎの国ではない
―中国のディズニーサプライヤーにおける労働条件についての調査報告書
2016年6月14日
われわれ Students and Scholars Against Corporate Misbehaviour (SACOM、多国籍企業の労働実態を監視する学者と学生の会) は、2005年の設立以来、中国のディズニーサプライヤーにおける労働条件について憂慮し続けてきた。
われわれが以前に行った調査では、工場において労災が頻発し、多数の労働者が、老朽化した設備のせいで指を切断していることが明らかになった。これを受けてディズニーは、これらの工場においていくつかの条件を改め、また、工場のリストを公表した。しかしながら、本件はまだ”めでたし、めでたし。終わり。”とはなっていない。先の報告から10年、SACOMの新しい調査報告で、従業員たちが未だに大きな労災リスクにさらされながら、ぎりぎりの生活を送っていることが明らかになっている。
この度の報告は、2015年7月から2016年2月に実施した、8つの在中国 ディズニーサプライヤー工場での調査にもとづいている。調査員は、工場の労働現場へ潜入し、また、周辺の労働者や入通院中の労働者から聞き取りを行った。3つの工場、とりわけ保温マグカップを製造している先行というサプライヤーの工場で労災が多発して おり、先行のある部署では、1ヶ月に10件を超える事故が発生していた。設備の老朽化と労働者へのトレーニング不足が原因で、従業員たちが指を切断したにもかかわらず、適切な補償がなされないという、明白な法律違反が起こっていた。事故による労災に加えて、労働者たちは、化学物質、ほこり、騒音による健康被害のおそれにさら されていたが、彼らはそもそもリスクについて知らされておらず、また、トレーニング や防護装備も提供されていなかった。
調査では、対象の8つの工場で非常な長労働時間が行われていること、一部の労働者は、ひと月の残業が144時間にも達すること、も判明した。さらに問題 なことに、残業代がきちんと支払われておらず、また、労働者は休みをとると罰金を課されていた。長時間労働はそれ自体健康に悪影響があるが、さらに、それによる疲労が労災を誘発していた。
労働者の多くが、会社から正式な契約書を提示され、署名するということをしていないことが判明したが、これは法に反する。正式な労働契約がないために、適切な賃金・手当て、その他の諸権利が明らかになっておらず、保証もされていない。さらに、8工場の雇用主たちは社会保障の企業負担金を払っていない。すなわち、彼ら経営者は、労働者たちが医療を受ける権利や、失業時や老後に保障を受ける権利を侵害しているということである。
この度の調査はまた、労働組合がある工場は8ヶ所中3ヶ所のみであることを明か にした。さらに、3ヶ所の組合も、役員は労働者の直接・間接選挙で選ばれておらず、まったく労働者を代表したものになっていなかった。
ディズニーがCSRとして唱っているものは、機能していないということが明らかになった。ディズニーは、サプライヤーをモニターしていると広報しているが、サプライヤーの工場にディズニーの監査が入る際は、事前に連絡が行っていることが、SACOMの調査で 分かった。
監査がいつ、どの項目について行われるのかサプライヤーが知っていれば、あらかじめさまざまな隠蔽がなされ、労働条件の真の実態を明らかにする監査などできない。
世界で2番目に大きいメディアコングロマリットであり、6月16日、上海に新たなディズニーランドのオープンを控えるディズニーには、中国に1,400あるそのサプライヤーの労働条件を改善する責任がある。労働者を搾取して巨大な利益をあげるのは正義に反する。 それゆえSACOMは、ディズニーが速やかに問題解決にとりくむことを要求する。
上述の、この度の調査で明らかになった諸問題を踏まえ、SACOMはディズニーに、サプライヤーの工場において下記を行うことを要求する。
1. 労働者の労働時間を短縮し、法律に則った休日、祝日の休みを付与すること。基本賃金と所得全体を引き上げ、法に定められた残業代を払うこと。所得は、労働の価値を反映するものでなければならないからである。
2. 旧式の、安全でない防護装備を[新しい、安全なものに]交換し、また、機械を[労働安全の観点からよりよいものに]更新すること。新規就労の労働者に対しては、安全および機械の操作に関する研修を1週間から半月実施すること。労災に遭った労働者には、失った所得や医療費、滋養のための支出、その他法が定める各種補償を払うこと。
3. 製造業者が下記を行うよう徹底すること。人体に有害ではない化学物質を使用すること、労働者に適切な防護装備を支給すること、および、半年毎に労働者の健康診断を行うようにさせること。
4. 製造業者が下記を行うよう徹底すること。労働者と法的に有効な労働契約を交わすこと、および、全労働者について社会保障費の雇用者負担分を法に則って払うこと。
5. 製造業者が労働者に罰金を課すことをやめさせること。また、工場の[寮の] 居住条件や食事のサービスを改善すること。
6. 児童労働を禁止すること。臨時雇用の労働者に、該当地域の最低賃金より低い賃金を払うことを禁止すること。(労働者派遣代理業者からの)派遣労働者や学生を正規労働者として雇用すること。また、”同一労働同一賃金”の原則を適用すること。
7. すべての工場で、労働者の民主的な選挙で選ばれた役員会を持つ労働組合を組織すること。
8. すべてのサプライヤーの社名および所在地を公表すること。また、メディアと大衆が、それらのサプライヤーの労働条件をモニターできるようにすること。
注:上記の[ ]内は、訳者が補った言葉で、( )は原文でもかっこに入れて記載されている箇所です。